色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ35)

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「教師って、少なからず人の人生に影響与える職業だなとは思ってたけど、ここまでとは思わなかったわ」

Aを抱きしめたまま言うと、やっぱり彼女はクスクス笑ってる。

「影響どころか、『先生』は私の人生そのものです」
「うわ、その呼び方」
「ドキッとする？」
「ムラッとする」

やだー！って、Aが楽しそうに身体を離した。

「さて、そろそろ風呂入って来たら？」
「何で？いやらしい」
「何考えてんの、お前こそいやらしいわ」
「フフッ、入って来る」

自分の持って来た鞄をゴソゴソして取り出したのは、所謂『お風呂セット』ってやつだろう。
その少し大きめのポーチを手にして、Aはバスルームへ入って行った。

暫くするとシャワーの音が聞こえて来て、ちょっとイケナイ方向に思考が向かうのをスマホ見て阻止する。

時々読ませて貰ってる桜井佳乃先生のブログを久々に開いてみた。
最新のエントリーにのタイトルが『期待しております』で、何をだろう？と思いながらタップする。

そこには、桜井先生が注目している新人作家の本が発売されたという事が書いてあった。

それは『ピエロ』という題名で、作家の名前は『加藤成亮』

「あ...これ、加藤くん...」

桜井先生の仕事部屋にあるのであろう机の上に置いてあるその本の装丁は綺麗な深い緑色で、花嵐堂のブックカバーに似ていた。

「すっげー...作家デビューだ」

そう言えば、Aと付き合ったばっかりの時、花嵐堂に行って加藤くんと会った事があった。
オレを見て一瞬動きが止まってたけど、すぐにいつも通り笑って挨拶されたっけ。

そしてオレに近付いて来て「監視ですか？」って、少し生意気に言った。

「監視しなきゃいけないよーなコト、加藤くんはしてんの？」

オレがそう言うと、彼はお手上げよろしく両手を小さく挙げて「とんでもない！僕は勝算の無い戦いには挑みません。時間の無駄ですから」と微笑んで

「僕はその時間を使って、先生の何倍も幸せになるんです」
「へぇ」
「夢の印税生活を送るんです」
「うわ、それは勝ち組だわ」

オレも釣られて笑った。

そんな彼が、とうとう作家デビュー。
本当に印税生活が夢じゃなくなってる。

なんだろう。

教え子じゃないのに、まるで教え子が夢を叶えたような気分。
おめでとう、って心の中で唱える。

ベッドに腹這いになって、スマホの画面に向かい「おめでとう」って小さな声で呟く。