色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ4)

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店内を見渡すと、結城が居ない事に気付いた。

時間を見て、仕事上がったのか...と思う。

帰ろう。
キミと顔を合わせる前に。

原稿を封筒に入れ直し加藤くんの所へ行くと、気まずい表情を見せるから思わず笑ってしまった。

「ありがと」
「あ...はい」

封筒を手渡すと、口元は笑えてるけどオレと目を合わせないようにしてるのが分かる。
きっと、不器用なんだな。

「ねぇ」
「はい」
「凄くリアルだったけど、これは実体験？」
「え...」
「もしかして、これは加藤くんの『今』なの？」

加藤くんの視線は定まらなくて、唇をギュっと噛んだ彼がやっと出した答えは「違います」だった。

「隠せてないよ」

上手に嘘も付けないこの青年は、どんな想いでこの小説をオレに渡したんだろう。
どんな想いで、オレと結城を見てたんだろう。

「加藤くん、丁寧に書いたんだろうね」
「......」
「誤字も脱字もほとんど無かった。日本語の使い方も間違ってない。気持ち悪い言い回しも無いし、話しの内容に矛盾も無い」
「...あっ、ありがとうございます」

加藤くんが、頭を下げた。

「すっごく魅力的な話だと思うよ。景色や空気をちゃんと感じる事が出来た」

強張ってた表情がパァっと明るくなる。

「特に、主人公が想いを寄せてる子の描写が秀逸だった」
「...あ...」
「フハッ、何でそんな顔すんの」

一瞬でまた顔に力が入った加藤くんの肩を、ポンと叩く。

「褒めてんだよ？本当に、純粋にすげぇなって思ったの」
「......」
「あんな子が自分の側に居たら、オレも絶対に好きになっちゃうだろうね」
「...先生、あのっ...！」
「じゃあね。良い結果が届く事を祈ってるよ、オレも」

加藤くんが持ってる封筒を人差し指でトントンとつついて、オレは店を出た。

振り返り、花嵐堂を見上げる。

もう、ここに来る事は無い。
そう思うと、小さな溜息が零れた。

ばーちゃんちに向かって、歩き出す。
ザ、ザ、と自分の足音だけが聴こえる。

加藤くんって、何歳だっけ...24とか25位か。

結城がやりたいこと、彼ならずっと同じテンションで一緒にしてあげられるんだろう。
良いヤツだし。

「...そーゆーコトなんだよなぁ...」

夜空を見上げると、鼻の奥がキンと痛んだ。
その痛みの正体なんて、知りたくも無い。

重症になる前で良かったじゃん。
気付けて良かったんだって。

忘れよう。
忘れられる。

「先生...っ！！」

なのに、どうして。

キミは、本当に残酷だ。