特級呪術師はYouTuber 【呪術廻戦】

それから　No5 ページ28

顔を腕で覆い隠し、空を仰ぐ。

嫌だ、あんな過去はもう思い出したくない。


カチャ


手元で握りしめていたペンダントが音を立てる。

それが俺には嘲笑っているかのように聞こえるのは、気のせいだろうか。

『……クソッ!!』

些細なことに苛立ち、ペンダントを強く握りしめる。

その時だった。


ブワッ!!!


『!?』

ペンダントから膨大な呪力を感じた。

俺が呪力を流したせいでバカになったのか?

俺はペンダントを手から離し、遠くへ投げる。

パキンッと、音がしてペンダントが割れた。

『……ぁ、?』

すると目の前に幻影のようなものが見えた。

いや、違う。あれは高度な術式で出された絵画だ。

対象の呪力を流し込むことで発動する呪術。

かなり高度で精密な呪力操作が必要な筈なのに…。



『…当主っ!!』


その技ができるのは当主のみだ。

術師同士の伝達に役立つ呪術だから、当主だけはそれを会得している。

『まさかっ!』

俺の「まさか」は当たった。

当「伊桜…。」

表れた人物は当主だ。

悲しそうな表情をしてこちらを見ていた。向いていたの方が正しいかもしれない。

『なんだよ、今さら現れて。』

問いかけても答えてはくれない。

今、ここにいるわけではないから。

当「伊桜には分かると思うがこれは綾峰家に伝わる呪術だ。

　 だから此方側の一方的な会話になってしまう。

　 すまない。」

謝られるなんて気味が悪い。

当「伊桜には謝りたい事がある。

　 それはお前の人生だ。お前の人生、本当に迷惑をかけた。

　 謝ってすむことではないと重々承知している。

　 だが、謝りたい。



　 すまなかった。 」


『…は?』

自身に向かって頭を下げる当主の姿が、信じられない。

『な、なんだよそれ…。

　何で今さら……。』

当「狗巻家に逆らえず、お前に何度も当たった事が本当に恥ずかしい。

　 親、失格だな。」


謝るなよ。

謝るな…。


『…違う、俺が落ちこぼれだったから。

　俺が才能を持っていなかったから父さんに迷惑をかけたんだ!

父さんは何も悪くない!!』

口からするりと出た「父さん」という言葉。

家族との関係を断ち切っていた俺にとって、言いたかった言葉。

『…今さら謝んないでよ。』



声が、震えてきた。

それから　No6→←それから　No4

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す