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第五十七話「名前」 ページ8

次の日




「か、可愛い……」



『あ、ありがとうございます……首領』




男装をしてマフィアに行った。

そして森に見せるとあんぐりと口を開けて驚いた。




「太宰君と兄弟と云われても納得出来るよ」



「でしょ?流石は僕の……」



「太宰君、この子は私のだからね?」




なんかまた云い合いを始めてる。


私は遠い目でそれを眺めて溜息を吐く。




「あ、そうだ」




森は思い出したかのように私を見た。

太宰も不思議そうに見ていた。




「名前を考えないとね?男装用の」



『名前……ですか』




慥かにそうだ。


“舞姫”と名乗っていたら元も子もない。




「うーん、リンタロウなんて如何かな」



「却下。それ森さんじゃん」



「えー、しっくりくると思ったのに」




私は苦笑いしか出来ない。


名前かぁ……どうせなら




『A』



「A?」



『私の本名と云いますか、前の名前です』



「えぇ〜、僕は嫌だ」



「いいんじゃないかい」




意見が割れてしまった。


珍しく太宰が機嫌が悪い。




『その方が反応しやすいので、新しい名前よりか良いかと……』




そう云うと森は尚更納得し、太宰は更に駄々を捏ね出した。




「絶対に厭、その名前は僕だけが知っていればいいのに」



「太宰君?そんな事云っている暇はないんだよ」




森の言葉に眉間に皺を寄せて唸る太宰。

本当に厭みたいだ。




『名前なんて減るものじゃないよ、太宰さん』



「……判ってないなぁ」




太宰はボソリと呟いてそっぽを向いてしまった。

その光景を見て森は笑う。




「……却説、今日からまたよろしく頼むよ“A君”」



『はい、仰せのままに……首領』




私は片膝をついて頭を垂れる。

一瞬、如何すればいいか迷ったが何時ぞやの漫画での中也の真似をした。




「声は声変わり前ってことで。少し低くすればバレないよ」



『ええ、判りました』




一つ咳払いをして返事をする。


太宰はそれを不服そうに眺めていた。





━━━





私は森の部屋を出たあと、太宰と共に拠点のあちこちを一緒に歩く。


そしてそれを見ていた黒服に『いつも兄がお世話になっております』と挨拶をした。



これで“太宰治には弟がいる”という噂は瞬く間に広がっていくだろう。




「……なんか気に食わない」




頬を赤く染めていた女性構成員に手を振っていると太宰が呟いた。


私は首を傾げると彼は私の手を繋ぎ歩き出した。


.

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作者名:らしろ | 作成日時:2020年8月10日 1時

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