第六十四話「翡翠の瞳」 ページ15
『却説と』
午後一時。
太宰と別れて私は海辺を歩く。
魔人探しなど途方に暮れそうだが根気よく探すしかない。
『……意外と直ぐに見つかりそうだと思ったんだけど』
ブツブツ云いながら商店街へ向かう。
こんな人の多いところに居るとは思えないが注意深く辺りを見回す。
計画無しに探し回ること二時間。
只の散歩になってしまったと思いながら休憩しようと近くの甘味処に這入る。
『時間の無駄遣いだ』
溜息を吐いてメニューを広げる。
人探しならば誰かに頼めばよかったか?
人探しを専門にしているのは……探偵か。
『武装探偵社なら直ぐに見つけてくれそうだな』
「なぁにー!?呼んだ!?」
『ひぃ!?』
真後ろから大声が聞こえて驚く。
しかも聞き覚えのある声だ。
『えっ?へ?あっ……えっ』
「あはははっ!面白い驚き方!」
「乱歩、人様に迷惑を掛けるな」
マジかよ、やばいよ、遭遇しちゃったよ。
私が言葉を発せずにいると彼───江戸川乱歩はニヤリと笑った。
「もしかして依頼?面白そうな事件だったら大歓迎!」
『……じ、事件ではなくて。えっと……』
云っていいのか?
魔人を探してるなんて云ってもいいのか!
……後々、怖いから云いたくないな。
「今、甘味を食べて僕はご機嫌だし、君が面白い驚き方をしたから大サービス!初回無料で依頼を受けてあげる!」
「乱歩!いい加減に……」
そう、もっと!もっと!云ってください!
保護者の福沢さん!!
「名探偵が華麗に解決してあげ───」
『けっ、結構です!!だ、大丈夫ですから!』
ひぃ!?眼鏡を取り出した!?
やめて!解決はいいから!
慌てて荷物を持って席を立った時だ。
乱歩に低い声で呼び止められた。
「……君、其奴に逢わない方がいい」
ピタリと足を止める。
少し振り向くと乱歩は眼鏡をかけ、綺麗な翡翠の瞳を此方に向けていた。
「じゃないと……君は……」
『判ってます』
私はしっかりと彼の目を見て云った。
誰に何を云われようが、私は……
『……もう覚悟は出来ていますから』
そう云って一度も振り返らずに店を出た。
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作者名:らしろ | 作成日時:2020年8月10日 1時