第二十一話「料理は得意」 ページ21
『……首領、舞姫です』
黒服から嫌そうな顔で「首領がお呼びだ」と云われた。
……そんな顔しなくてもいいではないか。
私はとぼとぼと最上階へと足を運んだのだ。
『……首領』
いくら叩敲しても返事はない。
見張りの黒服は何も云わない。
……私の予想ではエリスを追いかけ回してるような気がするんだが。
『……首領、失礼しますよ?いいですね?何回も呼びましたからね?』
そう云ってゆっくりと扉を開ける。
ちらりと隙間から中を覗くと静かだった。
二人が走り回ってると思ったら違った。
『……首領?』
扉を大きく開けて呼び掛ける。
すると執務机に座っていた森が顔を上げる。
「……あ、済まないね。気付かなかったよ」
『顔色が優れぬようですが大丈夫ですか』
扉を閉めて執務机に近付く。
彼の目の下には隈が出来ていてやつれて見えた。
『食事は取っていますか』
「これでも医者だよ。自分の健康管理はしっかりとやっているよ」
『……無理をなさらないでくださいね』
森は少しキョトンとした顔をして柔らかく微笑んだ。
「君にそんな事を云われる日が来るとは」
『……あ、あはは』
たまに毒づいてくるよねこの人。
でも心配したのは本当だ。
「でも最近は外食が多くて野菜をあまり食べてないなぁ」
『……でしたら私がお作りしましょうか』
「……え?」
『こう見えて、料理は出来るんですよ』
森は目を見開いて信じられないとでも云いたそうな顔をする。
そこまで驚かなくてもいいんだけどなぁ。
「君が料理を?出来るのかね?」
『はい、今でもしっかりと自炊してます』
「……記憶を無くす前の君は
マジか。
てかその
凄いね、勇気があるよ。
もしや自分が
『……ご安心下さい。
「……期待してるよ」
……もしやこの事で私を呼んだのだろうか?
話の区切りが着いたら森はゆっくりと立ち上がり伸びをした。
「……ふぅ、本題に入ろう」
『は、はい』
彼の目付きが変わった。
途端に執務室の空気が冷たくなる。
やはり違う、別の件で呼んだんだ。
私は背筋を正して森を見た。
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作者名:らしろ | 作成日時:2020年7月20日 0時