昇る魚 (ページ21)

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(阿部side)

目黒といると上昇している気がする。

思い浮かぶイメージは、透き通った青色の海の中で何の迷いもなくまっすぐに浮上して泳ぎ切る2匹の黒い魚だ。

まっすぐまっすぐ、淀みなく高みに昇る、魚。

「あべちゃんお疲れ様」

プシュッと今まさに録っているCMのサイダーのペットボトルを開けた音を立てて、目黒がしゃがんでる自分に対して立ちながら声をかけてきた。

ここ、座っていい？とわざわざ言わなくて良いのに前置きしてくれるところも目黒らしい優しさだなと思う。

「いいよ、もちろん」

そう答えるとぺちっと冷たい感触がほっぺに当たる。

隣に一緒にしゃがんだ目黒が

「はい、あべちゃんの分」

と世の目黒ファン…のみならず世の女性全員が卒倒しちゃうんじゃないかってくらいかっこよく笑った。

目黒は自分で持ってたサイダーとは別に自分の見えないところに違うサイダーを隠し持ってたみたいでそれをくれたようだ。

「(…今全目黒ファンにとってすごく羨ましいシチュエーションなんだろうなぁ)」

と思わずぼーっとしてしまい、あべちゃん？と目黒に声をふたたび声かけられて

「あ、いや何でもない」

と慌てて目黒に渡されたサイダーを開けて飲む。

(...目黒といると時々まるで女の子になったかのような気持ちになるな)

と苦笑いしそうな感情とは裏腹に、サイダーののどごしから澄み渡ったものを感じながらここ1・2年の事が何故か湧き上がっていく。

グループが新体制になり、メジャーデビューをしてからというものの当たり前のように仕事の質はデビュー前より格段に上がった。

もちろん頭の中で売り出し期だからこそ仕事の入ってくる勢いやスピードがデビュー前と遥かに違うことが分かってはいるが、それでも自分の夢が思い描いたように着実に叶っていく過程が、自分でも夢を見てるのではないかという位信じられなかった。

勉強は元から好きだった。

意図して高学歴を目指してた訳ではないけど勉強好きの結果として学歴を手に入れた。

クイズ番組やキャスターも元から好きでその延長線で得た学歴を生かして出られたらいいなとは思ってた。

だけどまさかこんなに上手くいくなんて。

それに加えて

「乾杯」

とサイダーを合わせにくる目黒が視界に入ってくる。

「...乾杯」

コツッと鈍い音を立てながら目黒か、と思わず心の中きながら微笑んでみる。

目黒蓮－－－－突如として自分の人生に入り込んできた存在。