昇る魚 (ページ27)

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「じゃあ、阿部と目黒が戻ってきたし全員で最初からやるぞーーー！！」

照が号令をかけて

「うぃっっっす！！！！」

とみんなで返事をする。

直前まで「照〜照〜」と照にちょっかいを出していた佐久間も諦めて自分の立ち位置に戻った。

彼の立ち位置は俺の斜め右前。

ふと彼を見るといつものただ明るく元気で可愛らしい佐久間ではなく、肝の座った時々ぬっと現れてくる彼の辛辣さや冷静さを凝縮したかのような目をしていて一瞬ゾクッとする。

なんなんだ？この感覚？？

はっと慌てて気を取り直そうとする。

「戻ってきた」という照の何気ない言葉がグループで活動していてよかったなとちょっと感傷的な気分に陥って見せて、冷静な自分を取り戻そうとした。

たとえ広い大海原で泳ぎきって遠くへ行ってしまっても戻ってくる場所があるという安心感。

一瞬の心の平穏感を取り戻したのも束の間、

「音楽かけるぞ〜〜3・2・1・スタート!!!」

バシャッッッと大きな水飛沫にかけられたかのような美しい衝撃が目に飛び込んでくる。

佐久間のダンスがーーー何百回何千回いや記憶の中では数えきれないほど見た彼のダンスが－－－－－いつもより尋常じゃないオーラを放っていた。

え？これリハでもなく単なる練習だよね？

と思うのも忘れてただただ彼のキレッキレのダンスに圧倒される。

自分の踊りに集中しないといけないのに、一気に彼の空間・彼の世界に惹き込まれる。

分かっていた。

シンメだった自分が何よりもわかっていたはずだった。

みんなだっていじられ役でツッコまれ役の佐久間に、もう長い仲なんだからいちいち言わない。

佐久間の圧倒的なダンス、アクロバット、パフォーマンス。

彼の一挙一動が俺たちのパフォーマンスのアクセントになっている事を。

アクセントに加えてインパクトを残してものすごくグループのパフォーマンスに貢献していて、グループとしても助けられている事を。

初めて自分のシンメが佐久間だと言われた時の事を覚えている。

彼のダンスは彼1人で完結している。

そんな彼の隣で、ダンス経験はあるとはいえどう踊ったらいいのだろうか。

そんな戸惑っている俺に対しても佐久間はいつも明るく笑って

「あべちゃん！！！！！！」

と笑顔で手を差し伸べてくれていた。

ずっとずっと、自分を呼びかけてくれるその声と笑顔に救われていた。