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「君は……」


苦々しげな表情を作った煉獄に、Aも心配そうに顔を歪める。
煉獄には悲しんで欲しくないのだと、そう言いたいかのような表情のAの中で、誰よりも大切にするべき存在が煉獄であることは確かだったが、果たして彼女自身の順位は何番目なのだろうか。

彼女は彼女が幸せになる未来を少しでも期待しているのだろうかと考えて心臓が握りしめられる思いだった。


何故気付いてあげられなかったのだろう。
自分よりも幼い少女が。愛されることを知らない少女が。それでも愛を求め、それを諦めた。
原因が自分にあると、ようやっと気付いた。




「俺は君のこと、好いているのだが伝わっていないのだろうか」


「どういうことですか?」とAは困ったように笑う。

自分が煉獄のことを好きなことは数年前から理解しているくせに、煉獄が自分のことを好きだと言葉にされてもそれがわからない。
好きになるはずないと心の奥底で強く考えているのだろうか。



「やはり俺のせいなのだろうな!すまない。
君が俺を想ってくれている分だけ、俺も君を想っている」




ガバリと煉獄が手を横に広げると、肩に掛けていた羽織がパサと音を立てて落ちた。
Aがそれに目をやって、拾おうと腰を折り曲げる前に、煉獄はその小さな身体を包み込んでやった。



「れ!?……煉獄さん?」



裏返った声が出た事を恥ずかしく思ったのだろうか、コホンと一度咳をするともう一度名前を呼ばれた。
女性にこんなことをするのは失礼だとわかっていながら、背中に回した腕を緩めることができない。


「煉獄さん?大丈夫ですか?とても嬉しいんですけれど、勘違いしちゃうので、ちょっと…」

「君は、この心臓の音を聴いてもまだ勘違いしてくれそうにないのか?」

「や……、えと、あの…れん、煉獄さん…」

「なんだ?」

「わかりました……。もう勘弁してください…」



ようやく、煉獄の期待通り顔を赤らめたAは今度は意識を飛ばすわけにはいかないと、目を逸らしながらか細い声で悲鳴をあげた。

まだ道は遠そうに見えるが、まずは一歩だ。
きっと交際が始まれば、Aも自身が愛されることへの実感も湧くだろう。
無理やり手に入れてしまった感は拭えないが、煉獄はこれで今は満足することにした。


「勘違いしてくれ、A

「ひゃい………」



──────────────────────
これで一旦終了です。
次話以降は番外編的立ち位置にする予定です。

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作者名:evoli | 作成日時:2020年1月23日 2時

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