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腕に入り込んでしまった。どんな顔をしていいのかわからないままに、欠けた頬を自分の影に隠れる様に向きを微調整して長いまつ毛を眺めた。
なんて言えばいいんだろう。こんなに逃げてきたのに自分勝手に出てきてしまった。
「知っていたのですか?」
「俺を救ってくれた、その顔を、身体を、醜いと思う訳がないであろう!
Aの心に惹かれたのだ。
だかしかし…そうだな、俺のせいでここまで傷付いてしまったのは、申し訳ない」
ボロボロの汚い手を取り、するりと撫でられる。
ひび割れや欠けの所為で、滑らかにはいかないけれど、何度かつっかえながらも、煉獄さんはその手をゆっくりと包み込む様に撫でてくれた。
同時に、ちらりと向けられた瞳は心配の色が燻っている。
その手の大きさに。
その手の暖かさに。
一定の間隔をおいて行われるその呼吸に。
消えない瞳の中の炎に。
Aの瞳からはぼろりと一度涙が溢れてしまって、止まらなくなった。
えぐえぐと、到底未婚女性が出してはいけない声で泣きながら、もう口癖となった言葉を一緒に吐き出す。
「うぅ…煉獄さん、お慕い申し上げます…」
「あぁ!俺もAの事を好いているぞ!」
「ヒェ………」
いつも通りのその返事、が来ると思っていた私は聞いたことのない返答に言葉を詰まらせた。
頭を強く打って幻聴が聞こえているのだろうか。
はは。可笑しい。おっかしいの。
ふらりと頭が揺れ、がくんと力が抜けたかと思うともう目の前が真っ暗になっていた。
慌てたように力が込められた硬い腕に抱かれる感覚に、これが夢でなかったとしたら血鬼術の類に違いないと思ったところでAは意識を手放した
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作者名:evoli | 作成日時:2020年1月23日 2時