【鬼滅の刃】どうかこっちを見て【煉獄杏寿郎】 (ページ19)

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剣の先が乗った煉獄のぽっかりと空いた腹は、どんどん傷ついていくAの身体と反比例するかのように徐々に塞がっているようで、心なしか呼吸もゆっくりになってきていた。
人間の治癒力では到底ありえない細胞の再生だった。それはどちらかと言うと、頸を斬り落とさないと生き続ける鬼のその再生力の様な。つまり、一般隊士である彼等には到底見覚えのある様な光景ではなかったのだ。

「ぁっ……ぅう…、はぁ、あ…」

「Aさんっ…」

黙っていた方がいいとわかっていながら、炭治郎はAに声をかけてしまっていた。
治療をやめろとは思わないが、彼女が傷付くこの行動をやめさせたい気持ちもあった。

どうすればいいのか、彼自身もわからないまま、不安げな声色で名前を呼んでいた。

「私は大丈夫。
煉獄さん。ほら、もう一度、呼吸して」

そんなのまるで煉獄さんと同じじゃないか。
一歩も引かない戦いで、それでも炭治郎たちの安否を心配しているのだ。
己が柱であるから当然？そんなはずがない。彼等だって普通の人間で、すぐに死ぬ。人より強いが、命は永遠ではないし、傷付けば痛い。普通はほどほどにしか治らない。

それでも彼等彼女らは此方にまで目を向けているのだ。

ふぅーーー。ふぅーーーー。

ぼろり、、、

顔が欠けたように見えた。
彫刻が崩れたかのように、整った彼女の顔は見る影もない。
隊服から出ている肌でさえこの有様なのだから、その中は果たしてどうなっているのか、考える事すら恐ろしい。

震える指が。華奢な肩が。強張った表情が、ふいと緩み力が抜けた。
同時に、指から離れた刀が地面と衝突して小さく音を立てる。
今までの静けさから一変、場違いなまでの音量に、それでも誰も何も言わない。

崩れ落ちるかのように、Aの顔は煉獄の心臓の上に落ち、心音を確かめるかのように耳を擦り付ける。
それは、主人の事を起こそうと必死で呼び掛ける飼い猫のようにも、一緒に眠りに就こうとする幼子のようにも見えた。

2度、３度、瞬いた大きな眼は潤んでいて、長い睫毛がしっとりと湿っていた。

炭治郎はその姿からまたも目が離せなくて、ゴクリと唾を飲み込む。
口の中がカラカラで、舌が喉に張り付きそうだった。