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「嘘だ。嘘だ。嘘……。
ハッ、はっ、はぁ…
大丈夫です。治ります。治します。
呼吸を整えて。ね、ぇ、煉獄さん。」
なだらかな曲線を描く頬の輪郭に手を添えれば、左目だけが動いてぼんやりとAを認識したらしい。
A……と、普段なら考えられないような薄い声で名前を呼ばれた。
パカリと開いた口は、Aに何かを伝えようとしているらしいのだけれども、黙っていて下さいと言わんばかりに、薄い唇に人差し指を乗せた。
「貴方が死ぬと言うならば、私も後を追います。
私を殺さないで煉獄さん。」
殆ど暴論で、理論だった筋などかけらもない。
それでも、煉獄杏寿郎という男は、それならば死んでなどいられないな、とでもいうかのように、弱々しくも呼吸を再開する。
そこが好きなのだ。愛おしくて大好きなのは、煉獄杏寿郎のそういうところ。
強い彼が、自らの為ではなく、他人の為に行動しようとするところ。
生きるか死ぬかさえ、人の意思で変えようとしているのか、と涙が出そうになる。
炭治郎くんから以前聞いていた、冨岡さんの叱責の言葉ではないが、「生殺与奪の権を他人に預けて」しまう彼がどうしようもなく哀しかった。
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作者名:evoli | 作成日時:2020年1月23日 2時