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Your side .
家に飛び込むなり、せっかく施してもらったメイクを水だけでゴシゴシと擦り落とす。
化粧をする習慣がないせいで、クレンジングなんて常備していなかった。この際肌が荒れたとて構わない。
テレビタレントだという彼に感じた引け目も、この人なら分かりあえるのではないかなんて思った自分も、一緒に洗い流されてしまえばそれでよかった。
メイクを落としている間、なるべく目を閉じないようにして、にじんだアイメイクがしみる眼球に意識をやっていた。
｢結婚しようよ。俺が養ってあげれば、動画撮らなくて済むでしょ｣
｢誰が見てるの？自己満足だって気づきなよ｣
｢恋人がいるのに不特定多数に媚びる女なんて、こっちから願い下げなんだよ｣
少しでも気を抜いてしまえばあの人の言葉が反芻した。完全に払拭したと思っていたトラウマは、最悪なタイミングで顔を出す。
目頭がじんじんと主張し始め、噛んだ唇には鉄の味を感じた。
伊沢さん、ごめんなさい。
そう何度思ったって、口に出したって、もう彼は私に失望しているんだろう。
大丈夫。私にはゲーム実況がある。
タオルを引っ張り出し、乱雑に顔を拭きながら自身にそう言い聞かせる。
ほんの少し寄り道してしまっただけで、私はゲーム実況者の 空巣 だという事実に変わりはない。
鞄からスマートフォンを取り出してTwitterを開くと、変わらないリスナーたちが私たちを待ってくれていた。
そうだ。何も問題ないじゃないか。
黒羽 A としてじゃなく、私は、空巣として生きていくんだ。
幾分か楽になった気持ちを抱え、私はひとつツイートをした。
@ crown_crow
私は一生空巣として生きてく
お前らだいすきだよ
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作者名：夜子 | 作成日時：2021年4月8日 17時
