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“あの日”も、大貴が来ていた。
診察が終わり、病院から出ると
大貴が頭を下げて待っていた。
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大貴「お金、受け取って。」
「…あんな大金、いらない。」
大貴「お願いだから…受け取ってよ。」
.
大貴の声が切なくこだまする。
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関係ないと言っときながら、
“責任”を取ろうとするのが伝わってくる。
でもこれを受け取れば、大貴はまた苦しんで
また責任を取ろうとするんだ。
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「…受け取れません。お金には困ってないから。」
大貴「…っ、それでも頼むから…」
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大貴も苦しんでるの、分かってる。
だけど、本当に大貴のせいじゃないんだよ。
あのとき受け止めた、私の責任。
だから…
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「…っ、いい加減にして!」
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“あのとき”、大貴は泣いていた。
何度も私の名前を呼んだ。
だから私はここにいるよって、
何度も手を伸ばした。
.
「毎日毎日頭を下げに来られても困るの!
もういいから来ないでよ。」
大貴「…受け取ってもらえるまではちゃんと来る。」
.
とても寂しそうな目だった。
不安とか、嫉妬とか。
色んな感情が混じった目。
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「…っ、何度も言ったけど、お金も充分あるし一人で平気。
大貴がいなくても大丈夫。だからもう来ないで。」
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こんな風にさせたのは、私。
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浅はかだった。
何とかしてあげたかった。
私は、大貴の不安や悲しみを
取り除きたいと思った。
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「お願いだから、もうやめて…」
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大貴に手を伸ばしそうになる。
愛情が重いのは大貴じゃなくて、私かもしれない。
今の私を見たら、涼介はきっとこう言うだろう。
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“そんな執着、愛情じゃない”
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涼介はとても真っ直ぐな人だから。
でも大貴も私も、もう真っ直ぐじゃない。
歪んでいた。
幼い果実を美味しく食べていた私たちはもういない。
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「自由になってよ…」
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もう私のせいで苦しまないでほしい。
大貴には、笑顔が似合うから。
だから…
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愛(プロフ) - おはようございます♪何回見ても泣けるお話です(泣)続編見たいです★楽しみにしてます(•‿•) (6月17日 7時) (レス) @page49 id: 170da3309e (このIDを非表示/違反報告)
まりも(プロフ) - ぱんださん» お返事遅くなりすぎて申し訳ございません…!何度も読み返してくださりありがとうございます。作った者としてこれ以上無い褒め言葉です。マイペース更新になりますがよろしくお願いいたします。 (5月27日 22時) (レス) id: 9a2317564f (このIDを非表示/違反報告)
ぱんだ(プロフ) - 私はこの作品のファンとして毎度更新を楽しみにしていました。終盤は涙が止まらなくなることも多く、気づけばこの作品にのめり込み、何度も読み返しています。そして何度読んでも毎度号泣しています。今作も楽しく拝読しています。これからも陰ながら応援しています。 (2023年2月5日 7時) (レス) id: 399b55da19 (このIDを非表示/違反報告)
まりも(プロフ) - るん。さん» 嬉しいコメントありがとうございます!楽しんでいただけて嬉しいです。ちょうど今新作公開したので、お時間あればお越しください。 (2022年12月31日 18時) (レス) id: 9a2317564f (このIDを非表示/違反報告)
るん。 - 本当に本当に本当にお疲れ様でした。最初から最後までとても楽しく読ませて頂きました。小説の本を読んでるかのように読みやすく感情移入しやすかったです。1番好きな小説です!また新作できた際には拝見させていただきます! (2022年12月18日 11時) (レス) @page49 id: fde368863d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まりも | 作成日時:2022年10月8日 0時