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白井邸を後にし、溜めていた息をどっと吐く。
そして、通帳が入っている鞄をぎゅっと握った。
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「…っ、はぁ…」
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立ち眩みがして、しゃがみ込みそうになるけど
ぐっと堪える。
だけど、ついさっき私が発したひどい言葉の数々がこだまして
私は手で口元を押さえた。
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「我ながらすごいことを言っちゃった…」
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ゆきちゃんのコンプレックスを平気で口にして傷つけて。
父親にはお金をせびって。
そして、肉親と認めないとはっきり口にし、
二度と会うつもりはないと言い切り、縁を切った。
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でも…これでよかった。
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おじさんの前でゆきちゃんを傷付けるために
何度も台詞を考えて、練習した。
たくさんの嘘を並べた。
おじさんに嫌われるために、母を利用した。
そして、二人は私のことをもっと憎むことになった。
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今日のことは、涼介には言っていない。
もちろん、他の人にも、大貴にも。
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初めてだった。
全部、一人で決めて一人でやったこと。
いつもなら、涼介がいてくれたけど、
本当に“一人”。
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改めて思い出すけど、さっきの私、
本当に最低なことをしたんだ。
大学で初めてできた友だち。
たった一人の妹と、たった一人の優しいお父さんに…
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作者名:まりも | 作成日時:2022年5月15日 21時