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***
「さっきは急に、すみませんでした…」
.
あれからしばらくして、やっと泣き止んだ私。
乾いた涙が頬にべっとりとくっついて
私はそれを無理矢理ティッシュで拭き取る。
.
光「こっちは大丈夫。それよりはなちゃんこそ
大丈夫なの?」
「はい。問題ありません。」
.
私は口角を上げて笑みを貼り付ける。
.
「それより、本当にごめんなさい。
あと荷物もまとめてくださってありがとうございます。」
.
頭を下げて、顔にかかった髪の毛を耳にかける。
そして…顔を上げた瞬間。
伊野尾先輩が小さく口を開いた。
.
慧「…下唇、噛んでる。」
「へっ…」
.
思わずマヌケな声を上げ、
私は咄嗟に唇に意識を向ける。
確かにぎゅっと噛んでいた。
無意識に。
.
「ん、と…」
.
私は唇を擦り合わせて誤魔化すように
またヘラっと笑う。
.
慧「うーん…」
「どう、しました…?」
.
唇を尖らせ、首を傾げる伊野尾先輩。
そして、伊野尾先輩はそのまま
私との距離を一歩詰めてきた。
.
「ひっ…」
光「おい伊野ちゃん!」
.
途端に、グッと近づく顔。
その瞳に宿るのは、いたずらに包まれた
少し真面目な色。
伊野尾先輩は謎めいたその顔を崩しもせず、
斜め上から私を見下ろした。
.
慧「…はなちゃんのその癖は、
恥ずかしがってる時と、我慢してるときなんだっけ?」
「えっ…」
.
慧「“林檎みたいに真っ赤なのに、
唇噛んで血出たらもったいない”
…だよね?」
.
“林檎みたいに真っ赤なのに、
唇噛んで血出たらもったいないよ?”
.
伊野尾先輩の言葉に、左胸が痛くなった。
初めてじゃなかったから。
高校一年生の文化祭で、大貴にも
全く同じことを言われて…
.
「なんで…知ってるんですか?」
.
半ば睨むようにして伊野尾先輩を見上げる。
八乙女先輩はあちゃー、とでも言うように
頭をくしゃくしゃにして抱えていて…
.
慧「…大ちゃん。」
***
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作者名：まりも
| 作成日時：2021年6月20日 23時
