明日はどこに逃げようか 【羽宮一虎】

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＿＿＿＿＿＿高校生活最後の卒業式。


意外に恥ずかしがり屋なそいつは、二本の黄色いバラを手に、校門の前で待ち伏せていた。




卒業証書の入った筒で肩を叩いていたオレも、その姿を見つけて思わず笑ってしまう。



肩で切り揃えられた黒髪が風に揺れる。

同時に、そいつの耳元では『リン』『リン』と趣味の悪い鈴のピアスが揺れていて、言いようのない愛しさが込み上げる。





自分の耳にも同じものがあることを確認して、オレは口を開いた。








「＿＿＿A」








「何してんの」って、校門の外側に立つAに笑って見せれば、俯いてた顔が勢いよく上げられて。



その顔は恥ずかしさで真っ赤に染まっている。

オマエ、こーゆうの慣れてないもんね。








「……一虎を、迎えに来た」


「うん、知ってる」








この状況が落ち着かないのか、さっきからずっと視線を彷徨わせてるAを「可愛いなぁ」なんて眺めているうちに、辺りに人が集まってくる。


大方女っ気の無かったオレに女が居て驚いているのだろう。




その中に今朝「第二ボタンをくれないか」と言ってきた女も居て、目があったからニッコリと笑っておいた。

そういうことだから、オレのことは諦めてね。






いい加減動かないオレにムカついてきたのか、痺れを切らしたAが「いつまで突っ立てんだよ！」なんて怒り出す。





仕方ないから、オレの方から大股で歩み寄って、一気に高校の敷居を跨ぐ。


もうちょっと勿体ぶりたかったんだけどな。








「なに怒ってんの？」








言いながら俯き気味のAの顎を掴んでその顔を上げさせる。



……可愛い。

虎なんて名前を持つ割には結構お利口だった方じゃない？オレ。


だって好きな女を前にして、一回も手ェ出さなかったんだから。





そうして人目も憚らず、今までお預けをくらっていた唇にすぐさま噛み付く。




うっすらと目を開けた先では、Aがびっくりしたように目を見開いていて。

そんな顔さえ可愛いと思うんだから、オレも大概惚れてる。







それから呆然とするAの腰を抱き上げると、想像以上の軽さに思わず呆気に取られた。


飯食ってる？








「ねぇ、A」



「……なんだよ」








見上げた先にあるAの顔は、涙で濡れていた。









「オレに一生愛される覚悟、出来てる？」


「っ、とっくに出来てるわ、ばぁか」









ねぇ、A。

オレが一生、オマエを守るからさ。








＿＿＿＿＿＿明日は二人で、どこに逃げようか。








FIN

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