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もう片っぽのピアスをオレが貰うと、Aの耳にはなんの飾りも残らなかった。
「不良要素減っちまったな」なんて笑う横顔が、てっぺんを目指す太陽に照らされていて。
目の前の海より、Aの目に写る海の方が何倍も綺麗だと思った。
それから暫く海を眺めて、その日の内に家へと帰されたオレは、昨日よりもボロボロになった母さんに滅茶苦茶叱られた。
オマエはどれだけ私を不幸にすれば気が済むのか、なんて叫ばれた時には、一瞬このまま窓から飛び降りてやろうかとも思ったけど。
握りしめたピアスの感触が、そんな気持ちをゆっくりと沈めていった。
仕事から帰ってきた父親にも散々殴られ蹴られ罵倒された。
それでも、その日一日の逃避行を思い出したオレの顔には自然と穏やかな笑顔が浮かんで、次の瞬間には「気持ち悪い」と床に突き飛ばされた。
思い出に浸ることの何が気持ち悪いのか、当時のオレにはさっぱり分からなかった。
多分今も、分からないと思う。
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「よーっす一虎。今日も来たな。洗いもん手伝え」
「えーめんどくせぇんだけど」
母さんと父親が離婚してからも、オレはAとじーさんの営む子ども食堂に足繁く通った。
その間に場地やマイキーなんて仲間も出来て、最近はよくAとそいつらの話をしている。
代わりにAも、よくオレに【佐野真一郎】とかいう
正直ムカつくなとは思うけど、ガキ扱いされたくなかったオレは、いつも「ふーん」と話半分に聞き流した。
同い年だからなんだよ。
オレだってA渡す気ねーし。
「……Aは好きな奴とかいねぇの?」
「んなもん居たらとっくに不良なんかやめてんだよ馬鹿か。てか急になんだオマエ。マセガキか?」
「は?何勘違いしてんだよ。Aがあまりにも女捨ててるからオレが心配してやってんだろ」
「うわ出た、上から目線な男!嫌われんぞオマエ」
「マジでうるせぇ。好きな奴以外に好かれても別に嬉しくねぇし」
Aがスポンジで磨いた皿をオレが水で流して、泡を落としきってからそれを丁寧に水切り台に並べていく。
三ヶ月前はこんなことさえ出来なくて、何度も皿を落とした。
その度にAには「触んな!塵取り持ってこい!」と怒鳴られて、少し離れた場所で破片の後片付けを見守っていた。
それが今じゃこんなにテキパキ動けるんだから、やっぱ慣れってすげぇわって思う。
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黒崎結利加(仮名) - うぅ、、、な、涙がぁ、、、何回読み返したのだろうか。この作品に出会えてよかったです‼主様、これからも頑張ってください!応援してます‼(え、イラストうますぎません?教えてください‼師ショー((殴) (2023年4月6日 3時) (レス) @page34 id: 5c1ce3d064 (このIDを非表示/違反報告)
Naifu - 凄い作品ですね!歳離れてるのってなんか変な感じで終わるのかな…なんて失礼なこと思ってたんですけど、まとまりとかお互いの関係的なものがよくて夢中になって読みました!本当になんか心があったまりました。これからも頑張って!無塩バターさんのこと応援してます! (2021年12月6日 20時) (レス) @page33 id: 1c04a135ec (このIDを非表示/違反報告)
無塩バター(プロフ) - 姫乃さん» 小説の方もイラストの方も褒めてくださりありがとうございます!感じたことを言葉に表すのって難しいので、なんかいいなと思って頂けただけでも嬉しいです!確かに、作者自身もよく逃げ出したいと思うことがあるので、自然と案が浮かんだのかもしれないです(笑) (2021年11月21日 17時) (レス) id: aad7259adc (このIDを非表示/違反報告)
姫乃(プロフ) - とっても素敵な小説でした!!その上絵もお上手で!!なんて言うか上手く言えないけどなんかいいなって思える素敵な作品でした!!主様が平日更新が忙しい。ということを言ってらっしゃってそんな主様だから書けた作品なのかななんて思ったり。素敵な作品でした!! (2021年11月19日 1時) (レス) @page35 id: 1356d63b83 (このIDを非表示/違反報告)
無塩バター(プロフ) - ミルクレープさん» コメントありがとうございます!きっと彼らの絆はこの先一生切れることなく繋がっていくんだろうと思います。こういう少し歪だけど何よりも綺麗な絆が大好きなので、そう言っていただけて嬉しいです!文才はすずめの涙程しかないのでご勘弁を(笑) (2021年10月31日 20時) (レス) id: aad7259adc (このIDを非表示/違反報告)
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