明日はどこに逃げようか 【羽宮一虎】

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＿＿＿＿＿＿あの日以降、オレは幾度となくAの居る【子ども食堂】に足を運んだ。



あの日みたく食えるものが無い時は勿論、学校帰りに寄り道したり、友達と遊ぶと嘘を吐いて食堂に走った。


その度、AとAのじーちゃんは笑顔で中に入れてくれた。




昼間や夕方は特に人が多かったから、オレは夜の方が好きだった。

だってAを他のガキに占領されなくてすむから。




食堂で働くAは、オレの目から見てもかなり人気で。



ここに来るやつは全員Aの周りに集まった。






その光景を見るのがなんか嫌で、やっぱり夜の方が良いなと思う。








人気者なAは嫌いだ。








「どうした一虎。そんな隅っこで縮こまって」


「……別に。オマエは他のガキの相手でもしてれば」


「おうおう、私にんな生意気な口利くガキはテメェだけだぞ一虎。そんなに殴られてぇか？」








……Aの口から『オマエだけ』という言葉を聞くのが好きだった。



Aのバイクに乗ったのも、ガキの中ではオレだけ。

Aのチョコソース好きを知ってんのも、ガキの中ではオレだけ。

Aを呼び捨てすんのも、ガキの中ではオレだけ。





Aのピアスの片方を貰ったのは、正真正銘オレだけ。





これ特別だけは、絶対誰にも渡さない。




いつも持ち歩いている鈴のピアスをポケットの中で握りしめる。


……絶対、絶対。









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ドガッ








「＿＿＿＿＿＿勘違いするなよ、一虎。これは立派な"しつけ"なんだからな」








Aから貰ったピアスを握りしめていれば、父親からどんだけ殴られても耐えられた。


側で母さんが「やめて」と叫ぶ声が聞こえてくる。




あー、痛ぇな。


また傷だらけで店行ったら、Aに怒られんのかな。

口の端が切れて上手く食えなかったら、また食わせてくれんのかな。




なんて。




殴れてる最中、頭に浮かぶのはケタケタ笑うAの顔ばかりで。



思い出すのは、笑い声に合わせて揺れる鈴の音で。







オレがもっと大人だったら、色が落ちて黒く染まり始めた頭のてっぺんを、撫でられたりしたのだろうか。








「一虎、オマエはお父さんの味方？それともお母さんの味方？どっちか必ず選びなさい」








今日もまた始まった。


いつもなら流れ作業のように「母さんだ」と答えてきたそれに、オレは初めて、父でも母でもない答えを返した。








「オレは、Aの味方」








殴られた。









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