第三十話 小噺 ページ32
にっこりと微笑んだ後スパンという効果音がつきそうな勢いで閉じられた扉をしばらく眺めた後私達に残されたのは例の天女から返すと言われて渡された本だけだった。
雷蔵に渡された本を覗き見るとそれは暗号集であった。
天女の言うことが本当であるならば先生方は随分と我々には理解できない考えをしてらっしゃる。
「天女様の前じゃこの辺と似てるやつ使えないね〜。」
汚れがないかとパラパラと紙を捲りながら雷蔵が呟いた。
「私達が使っているのはもっと複雑化したやつだろう?もしこれを使うとしても下級生辺りだろう。」
まあ確かにね、と雷蔵が笑う。
一通り確認し終わった雷蔵が本を閉じる。
「帰ろうか。」
「そうだね。」
この穏やかな日常がどれほど愛おしいのか。
天女如きに分かるまい。
いつか来たる血塗れた日常だけが残るような人生で、
この空間こそがこの時間こそが束の間の癒しであるのだ。
そこに天女が入る隙間など不要である。あってはならないのだ。
天女の部屋を一瞥し、私達はその場を後にした。
.
「なあ兵助、天女様が風邪を引いたって話聞いたか?」
同刻、五年い組長屋にて。
久々知兵助は一瞬びくりとした。
あまりにも早い噂の周りように流石は忍術学園だと感じる。
因みにあくまで俺は吉野先生に体調悪そうな天女を見かけたと話しただけである。
つまりほぼ無関係である。
「へぇ、早くない?」
平静を装い、苦笑いを返す。
「そうなんだよー!!噂じゃいつも姿を見ないから仕事もサボってるって話だったよ。」
これじゃあ今回も持たないかも〜!
そうにこやか言う勘右衛門にそうかもね、と返す。
多分俺が何かを隠してるのを勘右衛門は気づいてるし、勘右衛門が俺に何かを隠してるのを俺も気づいてる。
だって
可哀想にと笑う勘右衛門の目は
酷く冷たい目をしていた。
可哀想とは天女様のことか俺の事かはたまた勘右衛門のことか。
.
「こういう時に携帯あると便利なんだけどな〜…」
翌日。
私は目の前にある生物と対峙していた。
別に嫌いでもなければ好きでもない。
ただ近寄りたくは無い。
そう。蛇である。
大体150cmは優にありそうなこの蛇、絶対近づいたら絞め殺される。
これが野生の蛇じゃなかったら多分飼い主は一人だろう。
蛇の個体差なんて全くもって分からないが多分名前をつけるならきみこだろう。
そろりそろりとその場から逃げようとするともう1匹蛇が来た。
こっちは多分毒がある方。
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うん! - ほうじ茶さん» お褒め頂きありがとうございます。これからも楽しんでいただけると幸いです (1月21日 2時) (レス) id: 7fb5738de5 (このIDを非表示/違反報告)
ほうじ茶 - 今まで読んだ天女作品の中でダントツ面白いです!こういう性格の子好きです (1月18日 23時) (レス) id: 47dba8b665 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:うん! | 作成日時:2023年12月24日 1時