名前のない毒−07− ページ7
すると、神倉所長が椅子から立ち上がり、慌てて言う。
「証拠がないなら、今回はなかったことに」
「はぁ!?」
「いやいや、だってさ」
「証拠です」
神倉所長の言葉を遮ったのは中堂。
プリントをミコトへ差し出すと、そのまま話し続けた。
「葬儀屋の間で噂になってた。東央医大では最近死人が多い。調べてみたら入院患者の死亡数が倍増してた。増え始めたのは先月の頭から」
ミコトはデータの書かれた紙を捲りながら、中堂に言う。
「高野島さんが検診に行くひと月も前……」
「怪しいのが18人。既往の疾患と併発しての急性肺炎、腎不全、急性呼吸性
「この原因がMERSだとしたら……でも、これ中堂さん」
「なんだ、その格好」
今日のミコトの服はピンクのロングワンピースでいつもの雰囲気と違う。それに鋭く突っ込む中堂に、ミコトは一瞬止まる。
「いや、これは別に」
「俺も朝からずっと気になって気になって」
「僕も気になってました」
所長に久部と続いて言われ、困るミコトにAと夕子の女性陣は助け舟を出す。
『たまに違う系統の服も着たくなりますよ!』
「そうだ!A良いこと言った!女がいつどんな服を着ようといいじゃないですか」
「だって全然雰囲気違うんだもん」
「別に悪いって言ってるわけじゃ」
「はは、むしろ好きな方だ。へぇ、こういう分かりやすい」
「私の服いいから!」
久部をからかう夕子の言葉を遮ってミコトは叫んだ。白衣で隠すと、一息ついて話し出す。
「この18人の死因がMERSだったとしても、証拠にはなりません。院内で死亡した患者は院内で死因を判断される。病院側が死因を隠そうと思えば隠せてしまう。内部資料があれば別ですけど、数字だけじゃどうにも」
「証拠は19人目」
「19人目?」
「糖尿病で入院していた55歳男性。嘔吐と下痢の症状が出た後面会禁止になった。病院は病状悪化と説明したがICUではなく、陰圧制御室に隔離された。男は3週間生死を彷徨い、一昨日死んだ」
「一昨日……」
中堂の真意がわからない、という表情のミコトに久部が何か気づいた。
「裏」
「え?」
ミコトが紙を裏返すとそこには、葬式の会場と時間が書かれている。
「あと30分で証拠が灰になる」
中堂の言葉に、久部は慌ててバイクのヘルメットを持ち上げる。
「ま、間に合いますっ!」
それから、久部とミコトはバイクでその葬式会場へ向かって行った。
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カハラさん(プロフ) - 中堂先生のお話ないかな〜と探していたところ、こちらに辿りつきました。とても楽しいです!そして胸キュンしてます。ステキなお話を作ってくださってありがとうございます。 (2021年2月23日 8時) (レス) id: 1af5439158 (このIDを非表示/違反報告)
ミヤ(プロフ) - 質問よろしいですか? (2020年12月26日 16時) (レス) id: 7b57897ee4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鞠香 | 作成日時:2018年1月31日 23時