誰がために働く−11− ページ46
「おはようございます」
「おはよう、事故現場見つかったんだって?」
ラボに一番乗りで来たミコトに、神倉は聞く。
「はい。それに加えて社長を相手取って従業員全員で裁判を起こすことになりました。未払いの残業代の請求と、あと労働環境改善」
「そう」
「母が徹底的にとっちめてやると」
「とっちめられたいな〜」
「何言ってるんですか」
「今日午後出でよかったのに」
「はい。だから来たんです。誰も来ないので……中堂さんいますか?」
「ああ、昨夜は珍しく帰ったみたい。あの人四六時中いるからね〜所長室使うのはいいんだけど物が増えちゃってさ」
そう言いながら物を片付ける神倉に、ミコトはオブラートに包む事なく言い放つ。
「中堂さんは誰を殺したんですか」
その一言に、神倉の手がピタリと止まる。
「……殺していないとしたら、何故疑われて逮捕までされたんですか?」
ミコトの問いに、神倉は中々答えない。
「証拠不十分で釈放された中堂さんを日彰医大は解雇した。その経歴を神倉さんは知らないはずがない」
そして、そのまま言い続ける。
「中堂さんは昨夜、所沢の葬式場まで行って葬儀の前の遺体を検案していました。ご遺族に無断だったと思います。葬儀屋にお金を渡して……許される事じゃありません。あれは何をしていたんですか?」
「私も詳しくは知らないんです」
「神倉さん」
真実を教えてくれない神倉を咎めるミコトに、静かに言った。
「この事は、後ろの彼女の方が詳しい」
「え?」
振り向くとラボの入り口に立つAの姿があった。
「A、どうして……」
『中堂さんがここで働く理由。ミコトには隠しきれない気がしていた』
そして3人は所長室へ入ると、腰掛ける。
ミコトの向かいに神倉所長、その隣にAが座る。
Aは小さく溜息をつくと話し始めた。
『8年前、1人の女性が殺されたの。そのご遺体は日彰医大の法医学教室へ運ばれた。その日当番だった中堂さんはそのご遺体を解剖した。……何も、言わずに』
「何も言わずに……?」
言葉を反芻するミコトに、Aは頷いた。
『法医学者として当然の行為。ご遺体は毎日のようにやってくる。でも、』
Aの声が震える。
『でも、そのご遺体は……中堂さんの恋人だった。 彼は、運ばれて来た恋人の他殺体を何も言わずに解剖したの』
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カハラさん(プロフ) - 中堂先生のお話ないかな〜と探していたところ、こちらに辿りつきました。とても楽しいです!そして胸キュンしてます。ステキなお話を作ってくださってありがとうございます。 (2021年2月23日 8時) (レス) id: 1af5439158 (このIDを非表示/違反報告)
ミヤ(プロフ) - 質問よろしいですか? (2020年12月26日 16時) (レス) id: 7b57897ee4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鞠香 | 作成日時:2018年1月31日 23時