名前のない毒−05− ページ5
ミコトは嫌な予感がしつつ、久部に聞く。
「え、ねぇ……高野島さん風邪って、それいつの話?」
「確か出張から帰ってきてからで」
「出張?それ、どこ」
「えっと、確か」
『サウジアラビア』
「え?あ、はい。Aさんなんで知ってるんですか?」
『このパッケージの文字はアラビア語で書かれてる』
「読めるんですか!?」
驚嘆する久部にAは小さく首を横に振る。
『ほとんど読めないよ』
「A、これってまさか」
『ミコトの考えてる通りだと、わたしも思う』
Aは印刷した論文をミコトに渡す。
ミコトの読む手が小さく震えている。
「A、これ調べないと」
『うん。もちろん。ミコト、館内放送してくれる?』
「わかった!」
ミコトは部屋を飛び出すと、通路に設置してある館内放送用の電話を取った。
「UDIの三澄です。常駐企業の皆様に至急のご連絡です。冷凍保存の剖検資料からMERSコロナウィルスを検出できる企業はいらっしゃいませんか?死後経過時間を考えるとRT LAMP法などの遺伝子倍幅による検出が必要な状況です。心当たりのある方は至急ご連絡下さい」
全館に渡る放送に、帰ろうと外にいた所長の神倉も慌ててUDIラボへ戻る。
「MERSってどういうこと!?消毒は?殺菌!」
「ご遺体を預かった時点で死後200時間以上経っていました。体内のウイルスは不活性化。つまり、死んでいます」
「MERSといえば中東旅行でしょ?」
「行ってたんです。サウジアラビア。帰国してから風邪の症状も出てた。軽い風邪だと思ってるうちに土日で急激に悪化。免疫の過剰反応で急性腎不全を起こし、短期間のうちにだけ死亡した例が報告されています。肺炎も起こしていたはずなんですけど……腐敗で炎症が判別できなかった」
「ゆかりんの方は?」
『MERSの死者のほとんどは急性呼吸逼迫。それが喘息発作に間違われたんだと思います』
「Aさん……」
「Aがこの論文見つけてくれたんです」
ミコトは論文をコピーした紙を神倉へ渡すと、頭を抱えた。
それに、声をあげたのは久部。
「あの……マーズって火星?」
「はぁ!?」
「えっ?」
『んん?』
あり得ない、とみんなが驚いているところに、一人の常駐企業の男性がUDIラボを訪れる。
「あの〜PCR法での検出なら出来ますけど」
彼のおかげで、高野島渡からMERSコロナウイルスの検出が特定され、次の日にはニュースの一面を飾ることになった。
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カハラさん(プロフ) - 中堂先生のお話ないかな〜と探していたところ、こちらに辿りつきました。とても楽しいです!そして胸キュンしてます。ステキなお話を作ってくださってありがとうございます。 (2021年2月23日 8時) (レス) id: 1af5439158 (このIDを非表示/違反報告)
ミヤ(プロフ) - 質問よろしいですか? (2020年12月26日 16時) (レス) id: 7b57897ee4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鞠香 | 作成日時:2018年1月31日 23時