誰がために働く−02− ページ37
夏代は続ける。
「佐野さんには奥さんと2人のお子さんがいて、下の子はまだ2歳。貯金もなく、頼れるあてもない上に、バイクの任意保険が切れていた。お陰で交通事故の死亡保険はおりないし、生命保険にも入っていなかった」
蜂蜜ケーキをみんなでつつきながら、話の続きを聞く。美味しさから夕子は表情が緩みきっている。
Aは端のテーブルでプラスチックグローブを片付ける中堂にケーキを出した。
『召し上がります?』
「いらねえ」
『じゃあ、紅茶だけでも』
そう言って湯気が立つ紅茶を置くと、中堂は大人しくそれを啜った。
その向かいにAは座るとケーキをひとくちサイズにして頬張る。
『んん!これ、美味しい〜』
幸せそうに微笑むAに、中堂の表情も僅かに緩んだ。
そして少し離れたところで夏代の声が聞こえてくる。
「事故現場にはブレーキ痕はなかった。居眠り運転の可能性が高い。佐野さんは工事の製造責任者として月140時間は残業していた」
「じゃあ、過労を疑っているってこと?」
「そう。過労が原因なら労災案件になって会社に賠償金を請求出来る」
「ちなみに工場ってなんの工場?」
「しあわせの蜂蜜ケーキ」
その瞬間、全員静止した。
「でもね、工場長に事実関係を確認に行ったら《佐野はバイクの調子が悪い》と言っていたと」
「バイクの故障で事故を起こしたっていうの?」
「それで、バイク屋に話を聞きに行ったら完璧に修理したって。で、《修理した後に病院へ行くって言ってたから持病があるんじゃないか》って」
「持病があって、運転中に具合が悪くなって事故を起こしたっていうの?」
「それで病院へ話を聞きに行ったら、《倦怠感を訴えいましたがCTに異常はなく、検査入院を進めると仕事が忙しくて休みが取れないと断られたそうです。勤務先の工場でかなりの長時間労働をされていたようなので過労じゃないか》って」
今までの経緯に、ミコトもうーん。と悩んだ声をあげた。
「もう、堂々巡りよ。賠償金を払いたくな三銃士って呼ぶ事にした」
「三銃士ってそう言う話?」
「責任の所在を知りたいからって、その三銃士が明日ここへ来る。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げたミコトの母に、ラボのみんなは頷くのであった。
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カハラさん(プロフ) - 中堂先生のお話ないかな〜と探していたところ、こちらに辿りつきました。とても楽しいです!そして胸キュンしてます。ステキなお話を作ってくださってありがとうございます。 (2021年2月23日 8時) (レス) id: 1af5439158 (このIDを非表示/違反報告)
ミヤ(プロフ) - 質問よろしいですか? (2020年12月26日 16時) (レス) id: 7b57897ee4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鞠香 | 作成日時:2018年1月31日 23時