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靴を脱いだはいいものの置きっぱなしにしていいのか分からなかったため、袋に入れて鞄にしまうことにした。
代わりに持ってきたスリッパを履いて右手前の扉へと向かう。
一回だけ深呼吸をして三回ノックした。
「どうぞ」
簡素な声が聞こえてきたため、そっとドアノブに手をかけて扉を開けた。
「失礼いたします」
部屋は応接間のようなもので黒く重厚感のあるソファに黒髪の男性が座っていた。
「佐藤さんですね。じゃ、そこにでも座ってください」
深く赤い瞳が私を捉えたかと思うと手前のソファを手で示した。
「ありがとうございます。失礼いたします」
扉を閉めてから恐る恐るソファへと腰掛けた。
「まあ大体この前の電話で話はしてると思うんですけど、メイドといってもほぼ家政婦みたいなもんなんで気楽に捉えてください。一応もう一度説明してから部屋に案内しますね」
口ぶりからしてやはり前の電話の時の男性らしい。
私が返事をすると彼は仕事内容や注意事項について話してくれた。
まず基本的な仕事内容は料理、洗濯、掃除などの一般的なものらしく、それらは毎日決まった時間に行えばいいらしい。
リビングには掲示板のようなものが置いていて、それぞれ朝昼夜の食事の有無や自室の掃除をしていいかどうかなどについてチェックを入れるシステムになっているので、それを確認すればいいらしい。
その時に私の分の家事(料理や洗濯)も済ましていいと言ってもらったが、果たして(一応)メイドという立場でそれは良いのだろうか。
後はこの屋敷には目の前の彼以外にも住人が十三人いるらしいが、その内の一人はほとんど屋敷に戻らないらしく他の二人もたまにしかここには戻ってこないとのこと。
つまりは普段は実質十一人の家事を担当するらしい。
予想よりも多くて驚いたし仮に私以外にメイドがいないのなら重労働すぎて少し憂鬱だ。
まああれだけの給料の理由はここにあったってことか。
その他の細かい事項やルールについては書類を渡され後で確認するように言われた。
「まあ大体把握してもらったと思うから部屋に案内しますね。あ、そういえば名乗り忘れてたんですけど俺のことはトントンって呼んでください。あだ名やけど大体の人がそう呼ぶんで」
「……はい。分かりました、トントン様」
ツッコみたい気持ちを抑えながらそっと返事をした。
人を様付けで呼ぶなんてそうそう無い機会だな。
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作者名：たこやき | 作成日時：2023年12月17日 16時
