△ ページ13
しかし一つだけ疑問点がある。
今まで屋敷を探索してきた中でまだウツお嬢様以外の人には出会っていないが、廊下や共有スペースらしい部屋にある調度品や装飾、衣服などが女性用の物しか無かったのだ。
もちろん小物類などは本人の趣味もあるため何とも言えないが、ドレスが何着も置いてあってスーツやタキシードが一着も置かれていないのはさすがにおかしいだろう。
そもそも昨日出会ったトントン様もシャオロン様も男性物の服を着ていたのだ。
ありえない事だと分かっていても「鬱様──だけでなく私の主人が女性に変わった」のだと思えば他の出来事の辻褄は合う。
そんな事を言えばそれこそ頭がおかしくなったのかと言われそうである。
が、昨日と同じ屋敷のはずなのに全く男性の気配がしないのだ。一体これはどういうことなのか。
そこで私はふとリビングにもう一人女性の気配があった事を思い出した。
仮に鬱様に似たあの“ウツお嬢様”なる女性が壮大なドッキリでも仕掛けているのだとしたら、他の人に話を聞けば分かるはずだ。
さすがにもう移動している可能性も高いが試してみる価値はあるだろう。
とにかく今は人からの情報が欲しい。
紅茶を淹れた私は静かに廊下を歩き、リビングの扉をノックした。
「あら、何かしら」
鼻にかかるような女性の声が聞こえてきた。さっきウツお嬢様と会話していた声の主だ。
「この屋敷で勤め始めたメイドの佐藤でございます。紅茶を淹れたのでお持ちいたしました」
「そう。じゃあ入っていいですわ」
あくまで自然な態度を心がけた私はそっとドアノブを回して扉を開いた。
リビングに足を踏み入れると、水色の姫カットがよく似合う眼鏡をかけた女性がソファに座っていた。
やはりこれは────チーノ様の写真に浮かび上がった女性だ。
「貴女、ウツお姉様と廊下で話していたメイドですわね」
「はい。お初にお目にかかります、佐藤Aと申します」
形式上の挨拶をした私は深々と頭を下げた。
「チーノ・マックイーンと申しますわ。紅茶どうもありがとう」
優美な仕草で紅茶のカップを手に取る彼女を見つめつつも、私の頭の中はますます混沌を極めている。
彼女もまた“チーノ”と名乗った。本来男性であるはずの私の主人の名前を。
先ほどのウツお嬢様や彼女の様子を見ていても屋敷を探索してみても、これがドッキリとはとても思えない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 456人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たこやき | 作成日時：2023年12月17日 16時
