▼1章 ページ2
「ここが我々荘……か」
鬱蒼とした森に囲まれた広大な屋敷を見上げる。
今日から私はメイドとして、この“我々荘”で働くこととなる。
今の現代でメイドなんて一部の金持ちだけの世界だと思っていたし、まして私がそんな職業に就くなんて考えられなかった。
しかし貧困を極めに極めて高給料・住み込みの仕事を求めていた私にとっては、この仕事の募集チラシを見た時は天の恵みかと思ったものだ。
まあメイドの募集チラシなんて初めて見たし最初はメイド喫茶の方かと思ったのだが、仕事内容を見る限り本物のメイド……というか家政婦に近い仕事をするらしい。
一人暮らしをしているので人並みの家事はできるし料理の腕も褒められたことが何度かあるからおそらく問題はないはずだ。
それにしても面接や履歴書もなしに電話での口頭質問だけで速攻採用だなんて、逆に雇い主の方に問題がある気もしてくるが……。
まあ今の私に選択肢などないのだから大人しく働くしかない。
「……緊張するな」
一息ついて荘厳とした門の横に取り付けられたインターフォンを押した。
──あ、この間採用させていただいた佐藤Aさんですか。
「は、はい」
関西弁の訛りを持つ男性の声が聞こえてきた。
心なしかこの前電話した時の電話した時の人の声に似ていた気もするな。
────どうぞ。玄関を入って右手前の部屋にお越しください。
男性の声と同時に大きな門が音を当てて開いた。
なるほど、まさかの自動だったのか。
そんなことを思いつつも恐る恐る敷地内に入る。
それにしても向こうは私の顔を知らないはずなのに随分無防備に家に入れてくれるんだな。
綺麗に手入れされた植物を眺めながら広大な敷地内を歩いて玄関前へと辿り着く。
目の前にある綺麗な装飾が施された大きな扉を開けていいのだろうか。
しかし男性は玄関を入って右手前の部屋まで来いと言っていたはずだ。
家主のいない状況に躊躇しながらもそっと扉を開ける。
建て付けが悪くなっているのか錆びれたような音が鳴り何故か少し寒気を感じた。
扉を開けたせいか、風が吹き抜けて広間の上にあるシャンデリアの先の装飾が揺れ動いている。
少し強張った手をほぐしながら扉をそっと閉めた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 456人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たこやき | 作成日時：2023年12月17日 16時
