いくつもの夜を (ページ6)

今日:1 hit、昨日:9 hit、合計:396,776 hit

第6夜ページ6

・

「………ちゃん、、」

誰かがおれの毛布を取ろうとしてる。
やだな、もうちょっと寝てたい。

「伊野尾ちゃん！そろそろ起きてってば！」

「……も、、やまだ、うっさい…」

「起こさないと起きないでしょ、ほら！」

山田がおれの頬をぺちぺちと叩く。
ようやくおれが起き上がると、満足そうに笑った。

「おはよ、伊野尾ちゃん。もうお昼だよ？」

「…まじ？ちょっと寝過ぎた」

山田は今日、オフらしい。まぁ、この関係も山田のために始まったことだから、ほとんど山田が翌日オフの日にしかやらない。

どれだけストレス溜まってたって、仕事は大事なんだって。さすがだよね。

「ご飯、できてるよ。食べる？」

「ん、食べる食べる」

痛む体を無視して、着替えてからリビングへ向かう。美味しそうな香りが漂うリビング。

いただきます、と挨拶をしてからご飯を口に運んだ。山田はいつもご飯を作ってくれて、おれはいつもその美味しさに感動している。

「伊野尾ちゃんさ、さっき夢見てたでしょ？なかなか幸せそうな顔だったよ」

その言葉を聞いたおれの心境は複雑。
あの夜が、おれにとって嬉しいものかなんてわからない。

…いや、嬉しかったのか。
山田涼介の弱いところを、独り占めできるんだから。

「好きな人でも出てきた？」

「いや…、憧れてる人かなぁ」

『好き』と『憧れ』。どこが違うのか説明できないけど、確かに違うものだ。

「ふーん、伊野尾ちゃんの憧れねぇ…へえぇ…」

「なんでニヤニヤしてんの」

「なんでもなーい」

そう呟いてから山田は、ごちそうさま、と立ち上がった。
特に気にならなかったし、どうせ山田も教えてくれなそうだから、おれはただただ箸をすすめた。

・