いくつもの夜を (ページ39)

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第39夜ページ39

ar side

「……そっか。」

話を聞き終わると、伊野ちゃんは神妙な面持ちで頷き、こちらに向き直った。

「結局、未練たらたらで大ちゃん家まで来ちゃったね？」

「そ、だね。」

その文章には主語がなかったけど、きっと俺と伊野ちゃんのことを指していたんだと思う。

「じゃあ、行こっか。」

「……は？まさか、山田ん家？」

いくら伊野ちゃんでも、そんな空気の読めない、意味のわからないことは言わないと思ったのに。

伊野ちゃんは容易くうなずいた。

「他に行くとこなんてないでしょ？」

「や、でも、さっき別れたばっかだし。俺、知念泣かせたし……」

「えー、なに言ってんの？」

唇を尖らせて、伊野ちゃんはこちらを見る。
淡い柔らかな雰囲気は、なんだか俺を馬鹿にしてるみたいだった。

「大ちゃんが泣かせたんでしょ？なら、愛の告白でもなんでもして、もっと泣かせちゃえ。大ちゃんは、人の涙を誘う天才でしょ？」

いっつもメンバー泣かせるようなこと言うのは誰でしたっけー？、とわざとらしく言って伊野ちゃんは歩き出す。

「ほら、行くよ。」

きっと伊野ちゃんも、山田になにかを言うつもりなんだろう。

その背中に、山田と過ごしたいくつもの夜を抱えて、それを乗り越えるために歩いてるんだろう。

「伊野ちゃん、」

それに追い付きたくて、俺も隣に並ぶ。
淡く感じる体温は、少し震えてるような気がして。

「絶対、上手くいく。……から、安心してよ。」

「……大ちゃんに言われなくても、上手くいくから大丈夫だし。」

ふん、と顔を背ける伊野ちゃんの隣を、遅れをとらないように進む。

俺たちは、今から、それぞれの夜に終わりを告げる。

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