いくつもの夜を (ページ31)

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第31夜ページ31

in side

「笑った？いつ？」

「『今日で俺と伊野尾ちゃんの関係が終わりになる』って言った時。楽屋とお店で」

楽屋とお店？

お店は……大ちゃんのドジを思い出してただけ。

じゃあ、楽屋は？

「伊野尾ちゃんは、俺との関係が終わるのが嬉しくて笑ったんでしょう」

なんだか山田の声が湿って聞こえた。

「……俺は、伊野尾ちゃんにとって迷惑な存在だったのかな」

笑ってしまった、今度は自覚して。

だって、山田涼介との関係が迷惑なんて当たり前じゃん。
仕事に集中できないぐらいだるくて、体が痛くて、スタッフさんに何回呼び出されて怒られたか。

その度に何回も仕事と山田を嫌いになりそうだった。
それでもおれを動かしていたのは、山田涼介の弱味を自分だけが知っているという優越感。

山田との関係に、それ以外は求めてなかった。

「山田が迷惑なんて思ったこともない。おれは、おれの為に山田といたんだよ」

だから、そんな悲しそうな顔をしないで。
自分の気持ちに気づいてからすぐに関係がなくなっちゃう、こっちの身にもなってよ。

「……じゃあ、なんで伊野尾ちゃんは笑ったの」

覚えていないから迂闊に返事もできなくて、おれは押し黙る。

そんなおれに山田は「なんか言ってよ」と呟き、おれは「ごめん」と一番そぐわない言葉を放った。

「……んーん、おれこそごめん。ほんとはね、一緒にご飯を食べて、これからも仲良くしようねって言うつもりだったの。でも、なんかそれは伊野尾ちゃんに失礼な気がした」

「ん」

おれは、一緒にご飯を食べて、これからも仲良くしようねって言ってほしかったんだけどなぁ。

心の中で愚痴っていると、不意に山田が立ち上がる。

「……じゃあ、俺帰るね。送りたいところだけど、今日は知念が家に来るから。一人で帰れる？」

「ん、へーきだよ。子供じゃあるまいし」

「そっか。じゃあ、風邪引かないようにね」

「はーい、また明日ー」

ひらひらと手を振って、振り返してくれた山田の笑顔に心地よい胸の痛みを抱きながら、おれは少しの間そこにいた。

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