第24夜 ページ24
「なに、どういうこと?」
「……別に、なにも」
雲が月を隠したのか、先程よりも暗くなった部屋で、伊野尾ちゃんの顔は見えない。
まるで、伊野尾ちゃんが夜を味方につけているように、彼を夜が隠したみたいだった。
「ね、伊野尾ちゃ……あ、」
質問を重ねようとしたその時、俺のスマホが震える。圭人からの着信だった。
「……出ないの?」
「出る、けど……知念じゃないからね」
なんとなく。
ただなんとなく伊野尾ちゃんに言い訳をしてみる。
「早く出なよ」
ようやく出てきた月の明かりに照らされた顔は、不機嫌そうでもなく、ただただ眠そうだった。
さっきの言葉だって、この人の気まぐれかもしれない。
真剣に受け取っただけ、馬鹿だったのかもしれない。
「もしもし、」
それでもさっきの言葉に意味を見出だそうとして、圭人の言葉が一文字も耳に入って来ない自分がおかしかった。
最近の俺は、おかしい。
それも、伊野尾ちゃんといるときだけ。
「山ちゃん、聞いてる?」
「……、あ。ごめん、もっかいお願い」
「だから、知念が山ちゃんと連絡つかないって心配してたよ」
「あぁ、うん、ごめん。ありがと」
どういたしましてー、知念にちゃんと連絡してあげてね? と言う言葉を残して、圭人は電話を切った。
「伊野尾ちゃん、起きて……ないね」
この数分間の最中に、俺より年上の彼は眠ってしまったらしい。
布団からはみ出している脚と肩に布団をかけて、邪魔そうな髪を耳にかけてあげる。
「……おやすみ」
ほら、やっぱりおかしい。
伊野尾ちゃんとこういう関係になる前は、返事がない相手に『おやすみ』って言いたくなる感情、俺にはなかったはずなのに。
良いか悪いかは別として。
伊野尾ちゃんが俺のなにかを変えたこと。それか、俺のなかの伊野尾ちゃんが変わってしまったこと。
それは確かに実在する事実だった。
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作者名:鎖空 | 作成日時:2017年3月21日 13時