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第16夜 ページ16

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「……知念、遅いな」


知念に誘われてきたご飯屋さん。場所を指定して来たのは知念で、時間を設定したのも知念。
でも、知念はまだ来ていない。


電話でもしてみようか?
そう思ってスマホを取り出した意味はなかったらしい。



「お待たせ伊野ちゃん! 遅れてごめんね」

「全然待ってないよ」


おれって良くできた彼女みたい、なんて考えていると知念の異変に気がついた。


ありがと、と大げさに感謝を述べる知念の瞳にうっすらと涙が溜まっている。よく見れば、目も少し腫れてるような。


「知念、なんかあったの?」



気遣いのきの字もないような言葉。だけど、知念にまわりくどいことをしても意味はない気がする。


「なんにもないよ? 僕、なんか変だった?」

「いや、なんとなぁく…」


そう言うと知念は、ふーんと興味を無くしたようにメニューをパラパラとめくった。



「どうする? なに注文する?」


今のが嘘なのかどうかは置いといて、おれも知念にならってメニューを開く。


「……あった」

「……美味しそうなもの?」


知念はメニューから目を離さず、また口を開く。


「伊野ちゃん、聞いたでしょ。なんかあったのって」


時間差があったから、さすがに読み解けなかった。
なるほど、と感心しているおれをよそに、知念は少し腫れた目をこちらに向ける。


「僕の話、聞いてくれる?」

もちろん。『話したいことがある』って言って今日は呼ばれたんだから。


「とりあえず注文しよう? それから聞くよ」


知念が小さく頷く。

知念が泣いちゃうなんて、よほどのことがあったのかな?


そんな考えもあったけど、知念を泣かせるようなことなんて想像できなかったから、途中で考えるのをやめた。



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作者名:鎖空 | 作成日時:2017年3月21日 13時

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