いくつもの夜を (ページ14)

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第14夜ページ14

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「おはよ……あれ、伊野ちゃんと山田じゃん。珍しい組み合わせだね！」

入ってきたのは、おれにキスマークを付けた犯人。
険悪な雰囲気に気づいているのかいないのか、いつもと同じく接してくれるのは有難い。

「あ、そっか。そう言えば伊野ちゃんと山田ってセフ……」

「んっ？大ちゃん、自販機行きたいの！？行こ行こ！」

山田ばいばーい、と片手で手を振って、片手で大ちゃんの口を塞いで楽屋から出る。

「なに伊野ちゃん！？殺す気！？」

「それ、こっちの台詞！」

小声でそう返して、大ちゃんの腕を引っ張る。楽屋から少し離れたところで、手を離した。

「もう、山田に変なこと言わないでよ！それに！なんでキスマーク付けてるの！？」

「えぇ、その方が面白いかなぁって」

「全っ然、面白くないから！」

山田の眼力はもう、ほんと凄い。責められるような視線を向けられた瞬間、冷や汗が出そうだったもん。

「伊野ちゃんねぇ、山田のこと気にしすぎ。伊野ちゃんは山田のものじゃないんだから、堂々としてればいいじゃん」

「で、でも……」

「それとも、山田のものになりたいの？だからそんな必死に、俺とのこと隠してんの？」

「違う、けど……」

でも、なぜだか山田に『伊野尾ちゃんは大ちゃんのものなんだ』って思われるのは嫌だった。
たとえ、大ちゃんを違う人の名前に置き換えてもそれは変わらない。

「ま、いいや。伊野ちゃんが隠したいならそれでいいけど。でも、」

「ん？」

「俺は、伊野ちゃんが山田のものになるのは嫌だよ」

さっきまであんなに強い態度だったのに、その言葉は弱々しげだった。なんだか可哀想になる。

「山田のものとか色々言ってるけど、おれはおれだからね？それに、ほら。……山田、彼女いるんでしょ？」

「あ！そういえばそうだった！」

見るからに元気が出たような大ちゃんは、そっかそっかと廊下を歩いていく。

山田の凍てつくような視線と、大ちゃんの弱々しげな視線。
それぞれが頭の中でぐるぐる回っていて、振り払えない。

「伊野ちゃーん！早くー！」

「はーい！今行くー！」

選らばなきゃいけないんだったら、おれはどっちを選ぶんだろう。

そんな考えを自分の大声で掻き消して、大ちゃんのもとへ走り出した。

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