ユニゾン・ウェーブ

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岩「俺、
前置詞の使い分けが
よく分かんなくて。
例えばこれ」

「あー……難しいよね。
これは動詞によって変わるから、
この時はtoを使うの」

岩「へー。全部覚えてんの？」

「一通りは」

岩「もしかしてAって英語しゃべれる人？」

「ううん、しゃべれないよー。
学校の授業でやる英語が得意なだけ」



Aと話しながら、
問題をスラスラ解いていく。

「やべ。俺も終わっちゃった。
お前の教え方うまいから」と言うと、
Aは顔を綻ばせた。



「岩田くんの飲み込みが早いんだよ。
オーボエだって、
あっという間に吹けるようになったし」

岩「いや、オーボエは全然じゃん。
俺、お前みたいに綺麗な音で
完璧に吹けるようになりたいから」



そう言うと
Aはすごくうれしそうに笑った。

野暮ったい眼鏡をかけていても
その笑顔は可愛くて、つい見とれてしまう。



臣「じゃあメシ行くか」



ずっとスマホをいじっていた臣さんが
突然そう言い出した。

漫画を読んでいたふたりも片付け始めて、
この3人はマジで何しに来たんだと問いたくなる。



健「何食うー？A何が好きなん？」

「え、えっと……」



健二郎さんに尋ねられたAが
困ったように俯く。

もしかしたら、
この3人が怖いだけじゃなくて
先輩に対する遠慮があるのかもしれないと
ふと思った。

吹奏楽以外のことで、
先輩に対して自分の意見は
言いにくいのかもしれない。



岩「A」

「……はい」

岩「俺らはさ、ずっと4人で仲よくしてきて
ずっと一緒にいるから何でも分かるけど、
Aは違うだろ？
この5人の中で新しいメンバーは
お前だけなんだから、好きなものとか
食べたいものとか言ってくんなきゃ
分かんないよ」

「……」

岩「この人たちとしゃべるのが怖いんなら、
俺だけでいいから。
何食いたい？嫌いなものは？」



そう聞くと、Aは俯いていた顔を上げて
俺を見た。

「甘いものと、カレーが嫌い」と言い出して、
俺と他の3人が目を剥く。



臣「カレー？今カレーが嫌いっつった？」

隆「カレー嫌いな子がこの世にいんの？」

健「うわぁほんまもんの変わり者や！」



俺も、つい絶句してしまった。

生クリームに引き続き、カレー。

全お子様が大好きなものの筆頭じゃないか。

どうやったらカレーが嫌いになれるんだろう。

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