其の弍(伊作視点) ページ50
「Aを見ていないか?」
放課後、仙蔵と文次郎が僕と留三郎を呼び止めた。
「ん?吉野作造先生の手伝いじゃないのか?」
「その吉野先生が探してるんだ。草抜きはもう終わっていいと伝えたいそうだが、草抜きを頼んでいた長屋前にはいなかったそうでな」
「分かった、見かけたら伝えておく」
「僕は今日委員会は非番だからその辺探してみるよ」
「ああ、頼んだぞ」
「私は他の者にも訊ねてみる」
文次郎は向かっている方向からして今から会計委員会があるのだろう。
「どこ行ったんだろうな?」
「うーん、Aちゃんが仕事を途中でほっぽり出すとは思えないけど…ハッ!?」
もしかしてあそこじゃないか!?
心当たりの場所まで走り出すと、留三郎もいきなりどうしたんだと文句を言いながら付いてくる。
長屋前の厠。一つだけ使用中になっているその扉を叩く。
「伊作だけど、Aちゃん大丈夫?」
すると、少ししてその扉が開く。
「私はAじゃないぞ伊作!」
中にいたのは小平太だった。
てっきりこの時代にやってきて初めての月のものが来て厠で困っているんじゃないかと思っていたんだけど…
「何だ小平太か、ごめんね」
「Aがどうかしたのか?」
「吉野先生が探しておられるみたいで、僕も暇だから探しているところなんだけど…」
「そうか、それならば高いところから!」
小平太が長屋の屋根に上がり、見渡す。
「校庭に人集りが出来てるぞ!」
「行ってみよう!」
下級生が輪になって、何かを覗き込んでいるようだ。
「あ!善法寺先輩、食満先輩、七松先輩だ!」
「君達どうしたの?」
「それが、Aさんが…」
落とし穴に落ちている。
気を失っているのか寝ているのか、とりあえず呼び掛けには応答しないらしい。
「俺、用具倉庫から縄梯子持ってくるから!」
「いや、その必要はない!」
小平太は楽しそうにニヤリと笑うと、穴底に飛び降りた。
「いっけいけどんどーんッ、とと!」
「小平太!?何てことするんだ!危ないじゃないか!?」
彼女が横になっているから着地できる面積は少ないというのに、後先考えず馬鹿な真似を…!
結局片足しか着地できず、よろけてAちゃんに覆い被さった。
「なっはは、悪い悪い!A、大丈夫か!?」
「頭を打っているかもしれないから激しく揺さぶらないでよ!?」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年7月31日 17時