其の弍(利吉視点) ページ47
「利吉、Aは少ぉし特殊なの。忍たまの装束を着ているけれど忍たまではないし、女の子なの。でもくのたまでもないの」
「…ですよねぇ!?」
良かった、女の子だった。よく見たらお腹にくびれがあるし、肩幅も狭くて布が余っている。
「Aは綾部喜八郎の掘った穴に現れた未来人なのよ」
「みっ…未来人!?」
彼女の顔を見ると、真剣な眼差しでこくりと頷く。冗談では無さそうだ。
「具体的にどれくらい未来から来たんですか?」
「五百年から六百年くらい先でしょうか」
「そんな先から!未来では過去へ行ける技術が開発されたって事ですか?」
「いえ、そういう訳ではなく。私は目を覚ましたら突然この世界に…」
「そうでしたか…それはお気の毒に…」
未来から来たって話は俄には信じ難いが…。
「ちなみに、四年生の装束を着ているけれど歳は十六、あんたの二つ下よ。丁度いいと思わなぁい?」
伝子さんは何やら含みを持たせた言い方をする。
「なっ、何がですか!?それより小袖の話じゃないんですか?」
「んもう、肝心なところでせっかちなんだから。
A、これ利吉のお下がりなのだけど、もう小さくて着られないからどうかと思って」
「思い入れのある品を頂いてよろしいのですか?」
「いやあ、別に大した思い入れはありませんよ。良かったら着てやって下さい」
「…ありがとう、ございます…!
この時代に来て、初めての自分の物です…!」
涙目で目をきらきらと輝かせて自分のお古を手にして喜ぶ姿に不覚にも見惚れてしまった。
私のお古でこんなに喜ぶなら、他の物をあげたらどんな顔をするだろう?
「ちょっと肩に掛けてみなさいよぅ、頭巾も取って」
彼女はまだ間に合わせで与えられた忍装束にも慣れていないのだろう、頭巾を取るのにもたもたと手間取った。
矢羽音で父上が【やれ】と言ってきたので手伝ってあげると、恥ずかしいのか顔を赤くしてしまった。
「うんうん、よぉく似合うわよ!ねえ利吉?」
「え?ええ」
五年ほど前、これを女装の練習で使っていた時の記憶が蘇る。それなりに女子っぽくはできたが、父上譲りの目付きの悪さもあって、どう頑張っても可愛くは仕上がらなかった。
一方で彼女は肩に掛けているだけだが、既に昔の私よりも格段にしっくりきている。
「しかし父上、十六であればもう少し大人っぽい色柄の方が良いのではありませんか?」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年7月31日 17時