其の参 ページ42
七松に叩かれた傷がジクジクと痛い。しかしそれ以上に何故か胸が痛かった。
「もそ…お前は勘違いをしている…」
長次さんが言う。
「そんな事で追い出す訳ないだろう…むしろ、何者かに狙われているなら守ってやらねば…」
「その曲者も俺達六年生のいない隙を狙うとは骨のない奴だな?居合わせたのが五年じゃなければ今頃そいつはお縄についてたっていうのに!」
「ああ!ついでにAに怪我一つさせてなかっただろうな!」
文次郎君と七松の言葉に目頭が熱くなる。
「つうか、寝巻の腰紐を解く必要がどこにある!?
けしからん!!どこのどいつだァァァ!?」
「留三郎落ち着いて、また鼻血出るから」
「お前はつまらん事を気にせず伊作に診てもらえ」
「そうだぞ!細かいことは気にするな!!」
「おいで、包帯を巻き直してあげる」
「…うん!」
袴の紐を緩めて下げる。幸いなことに上衣の下に着ている黒のタンクトップみたいな服が丈が長くて恥ずかしいところが見えてしまうというような事はない。
「随分緩いね。包帯を巻くのは難しかった?」
「うん、難しかった。未来の包帯は伸び縮みする素材だし、そもそも包帯を巻く機会がそんなになくて。
でも昨日はきつめに巻いて寝たんだよ?朝起きたら脚が冷たかったから緩めに巻き直しただけ」
「冷たかっただって!?何してるんだい!
下手したら脚が腐り落ちるんだよ!?」
「ご、ごめんなさい」
「はははっ!伊作は怪我の不養生に対してはめちゃくちゃ怖いからな!」
後ろから七松の元気な声が掛かる。今回は視線は逸らしてくれている。
「小平太はいつもだもんな」
「ああ!いつも怒られてる!」
「…これ、結構深いよ。痛いでしょ」
「そうだね…叩かれて声を我慢できないくらいには痛むねぇ」
「そんなに深いのか」
「仙蔵が三年の時の野外実習で負った刀傷くらいかな」
「それは痛かろう。あの時は酒が滲みたのなんのって」
「凄いね、人の傷の程度を覚えてるなんて」
「あはは、そうかな…ちょっと滲みるよ」
「いっっっった!!!!」
「ごめんね〜」
まだ怒っているのか、酒の染み込んだ綿球をポンポンポンポン執拗に押し付けてくる。
伊作君、怒らせたら怖い。覚えておこう…。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年7月31日 17時