其の弍 ページ41
「…兵助に向かって何かが飛んで来て、それを兵助が避けるのと同時に私が捕まりました。
曲者に未来のことを知る為に連れ去るのが目的と聞かされ、抵抗を防ぐ目的で寝巻の腰紐を解かれてしまいました。
曲者が逃亡しようと忍術学園の塀に飛び乗った時に三郎と松千代先生の攻撃で怯んだ曲者が私の事を離して、それを野村先生が受け止めてくださいました。
曲者は松千代先生と野村先生が追いましたけど、もう少しの所で逃したと聞きました」
観念して全てを話した。
もう蛸食べた幸福なんて吹っ飛んで、ここを追い出されたらこれからどうしようかという思考に変わった。
「その攻撃の時か、お前が怪我を負ったのは？」
文次郎君が訊ねる。
「怪我？」
怪我の件は一度目は肯定も否定もせずとぼけてみようかな。
そう思っていると七松がずんずんと歩いて来て、いきなり強く両肩を掴む。
その力のまま腕やら背中やらバシバシと叩かれ、それが腰を通過し、脚に到達し…
昨日の怪我の上をバシ！と叩かれる。
「ン"ンッ…」
「怪我をしたのはここだな？」
「…ハイ…」
いや確認の仕方が暴力的…！
「昨日嫌な予感がして、学園を出る前に包帯の棚卸しをしておいたんだ。そうしたら今朝には一つ減っていたんだけど、乱太郎は『誰も治療していない』と言い張るのでね。加えて先生からの侵入者の報告で、これはAちゃんが怪我をして包帯を持って行ったと確信した」
乱太郎君…言わないでおいてくれたんだね…ごめん…！
「どうして朝一番に僕に言わなかったの？いくら未来の医学知識があるからと言っても自分で処置したまま放っておいたら駄目じゃないか！未来とここでは使っているものが全然違うんだよ！？」
伊作君、未来の傷の処置方法は知らない筈だけれど、医学は日進月歩だと知っているからこそ、この時代での最善を尽くすようにそうやって言うのだろう。
「怪我をしたのが太腿だから伊作が変な気を起こすとでも思ったか？」
「それはない！！！」
「では何故黙っていた？」
「…一連のことを知られたら、百害あって一理なしの私を留め置く理由なんてないから、ここから追い出されると思って…。」
「何だ、そんな事か…」
「そんな事って！…いや、仙蔵からしたら小さな事かもしれないけど、私からしたらこの戦乱の世でどこに身を寄せるかっていうのはとても大きな事だし、もし忍術学園からしか未来に帰れなかったら、もう一生この時代にいるしかないし…」
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年7月31日 17時
