其の弍(八左ヱ門視点) ページ38
「この子が狼のオカ美だよ」
「うわー!きりりとした目が格好いいー!フサフサの毛並みが綺麗ー!!」
目をキラキラ輝かせてオカ美を見るAのなんと微笑ましいことか。
「はあ。癒し。尊い」
「狼、初めて見たの?」
「うん。私のいた時代では、ニホンオオカミは絶滅しちゃったの」
「えっ…そうなの?」
「うん。まだ生き残りがいるんじゃないかって浪漫を持って調査してる人もいるみたいだけど。
だから狼は初めましてだよ」
「そっか…」
「あ〜今のうちに目に焼き付けておかないと!未来に帰ったらもう見られないもんね!オカ美〜こっち向いて〜」
…何だ?今凄く不快な気持ちになった。
胸が鷲掴みされるような感覚だ。
「…帰りたいの?」
「え?」
「未来に。帰りたい?」
暫しの沈黙。何でこんな事訊いてんだろ、俺。
当然だろ、帰りたいに決まってるじゃないか。
「………そうだねぇ、忍術学園の皆に迷惑を掛け続けるのも心が痛むし…って、昨日『迷惑じゃない』って言ってくれたんだっけ。本当に優しいよね、八左ヱ門君って」
「…別に、俺は帰ってほしくないだけで、優しくなんか…」
Aは目を丸くした。
「…って俺何言って…!今のなし!忘れて!」
「忘れないよ」
「え…」
「なんかよくわからないけど、心が暖かくなった。昨日も重かっただろうけど抱えてもらってすごく安心したし、八左ヱ門君と話しているとこう…私の気持ちを引っ張り上げてくれるような?そんな感じがして心地良いんだ。
だから忘れない」
いや、『帰ってほしくない』って完全な俺の我儘だったのに。Aはそう言われると嬉しいんだ。
「ねえ。何で俺達には呼び捨てにするように言って、Aは君付けなの?」
「別に、理由はないけど?」
「じゃあ八左ヱ門って呼んで」
「…八左ヱ門?」
「うん、その方が友達っぽいだろ!」
これも俺の我儘。友達っぽいとかは付け足しで、ただ俺が八左ヱ門って呼んで欲しいだけなんだけど。
「…うん!嬉しい!友達二号!」
「二号?一号は誰なんだ?」
「一号は浜君だよ」
「四年の浜守一郎か…。アイツも明るくていい奴だよな」
「うん、浜君も私が来たことを嬉しいって言ってくれたし、私のこと転入生仲間みたいに思ってくれてるみたいで」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年7月31日 17時