其の伍 ページ34
私が言ったところで、医務室の戸が開く。
先程私を受け止めて下さった眼鏡の先生と、曲者を追いかけていった毛深い先生が立っている。
「怪我の具合はどうだ？」
「受け止めて頂いたお陰で大したことありません、ありがとうございます」
「それならば良いが…」
「松千代先生、さっきの奴は…」
「それが、あと少しのところで取り逃してしまい…。
ああ、恥ずかしい…！！」
「A、あの者に心当たりは？」
「全くありません」
「それもそうだろうな、昨日こちらに来たばかりだし。
この後誰か部屋まで送ってやってくれ」
「「あ、はい」」
緊急の職員会議があるとのことで、先生方は無事を確認した後すぐに去っていった。
乱太郎君だけが置いてきぼりで、何があったか聞こうにも聞けず、所在なさそうにしている。五年生の皆も後輩の前では話せない内容なのか、話したそうで黙っている。
「…あの、乱太郎君。初めましてで申し訳ないのだけれど、私が怪我したこと、六年生には黙っていてくれるかな？」
「えっ、どうしてですか？」
「うーん、大したことないし、あんまり大事にしたくないんだよね。怪我は私の不注意だし」
「しかし、先生方から先輩方に話があるかも…」
「まあ、その時はその時かな」
「は、はい…わかりました」
「ありがとう、ごめんね。五年生の皆さん、良かったら場所を変えて話しませんか？」
「ああ…それなら俺たちの部屋でどう？」
「うん、俺はいいよ」
兵助が提案して、毛先が丸くまとまった特徴的な髪の人が了承する。
五年長屋の兵助の部屋にはもう一つ、勘右衛門の札が掛かっている。髪の特徴的な人の名だろうか。
「……………」
「…………………」
まるでお通夜のような雰囲気。
話に誘ったのは私なので、私から話を振ることにした。
「曲者の話が本当なら、三郎は私を殺そうとしたけれど、曲者に邪魔をされたということで間違いない？」
何故か三郎の顔をした人が二人並んでいるけれど、そのうちの一人が明らかに肩を落として小さくなっているので、きっとそちらが殺気を放っていた三郎なのだろう。
「半分正解で、半分間違っている。
殺気を隠して襲い掛かるふりをするつもりだった。そこで反応を見てお前が手練れかどうかを判断しようとした。それをする前に曲者が現れたという訳だ」
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年7月31日 17時
