其の参(三郎視点) ページ32
鏢刀が未来人の脚を傷付けるのと同時に、曲者の腕に縄鏢が絡みつく。どうやら松千代先生が放った縄のようで、先生がグンと引っ張ると曲者は迷いなく未来人を手放し、自由になった手で体勢を崩す前に縄を切り、学園外に逃走した。それを松千代先生も追う。
「大丈夫か!」
一方、落とされた未来人は駆けつけた野村先生が間一髪受け止めて無事だった。
私と兵助は松千代先生の援護に向かおうと塀に飛び上がろうとした瞬間、背後から襟を掴まれて地面に仰向けで倒れ込んだ。
「出門票にサイン!」
「小松田さん!?今はそれどころじゃ、」
「何やってんですか!曲者が逃げてしまいます!」
「サ〜イ〜ン〜!」
空気の読めない小松田さんに阻まれてしまった。
「三郎、兵助!無事か!?」
私達の元に駆け寄るのは勘右衛門、八左ヱ門、雷蔵だ。三人は遠くから見守っていたので、いち早く異変を察知して最寄りの先生方に報せてくれたようだ。
「俺達は無事だよ、だけどAさんが怪我を!」
「竹谷、ちょっと手伝ってくれないか?」
八左ヱ門が野村先生に呼ばれる。
「酷く震えていてな、私が後ろから脇を支えているから竹谷はそこの腰紐を巻いてやってくれ」
視線で地面に落ちた腰紐を示す。
「は、はい!」
「すみません、お手数お掛けします」
未来人は普通に喋れるのに滑稽なくらい膝が笑って立てないでいる。
「…どうでしょう。苦しくないですか?」
「はい、大丈夫です」
「竹谷、あと任せていいか?私は松千代先生の様子を見に行く!」
「はい!」
尚も立てない未来人を八左ヱ門が横抱きにして野村先生の背を視線で追う。
「あ…怪我をみないと!大丈夫ですか!?寝巻が切れて血が滲んでる…!」
「さっきの奴にやられたの!?」
「いや、鏢刀が当たったんだ」
鏢刀、と聞いて私に視線が集まるが、兵助が慌てたように取り繕う。
「あ、違うよ。曲者の脚を狙ったんだけど、わざとAさんを抱える手を緩めて抵抗し易くしたんだ。それで体勢が変わってAさんの脚に」
「早い話が盾にされたって事だな?医務室に連れて行こう、八左ヱ門!」
「ああ!」
八左ヱ門がそのまま抱きながら走る。
その周りに五年生が固まって移動するが、私は一人距離を取りながら向かっていた。
94人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年7月31日 17時