曲者侵入!の段(三郎視点) ページ30
夜の帳が下りた。今日は新月のため一層暗い。
六年生は陽が落ちる前に出立した。ちょうど実習を始める頃だろう。
「兵助」
「うん」
兵助が未来人しかいない六年長屋へと出向く。それを密かに五年長屋の屋根上から見守る。
未来人の部屋は真っ暗だ。
「Aさん、まだお戻りでないですか?」
兵助が声を掛けると戸が開く。
「ううん、いるよ」
「どうして灯りを付けないんですか?」
「油も火種もないからね」
「そんな、俺に言って下さったら良かったのに!」
「あはは、居候の分際で油を使うのは気が引けるから。大丈夫だよ、何もする事はないし」
「…そうですか。行きましょうか」
忍たま長屋からくのたまの敷地へと繋がる道は基本的には整備されているが、人目につかぬよう裏道を行ってもらっている。落ち葉をサクサクと踏みしめる音しか聞こえない。
やがて敷地を隔てる門の前に到達する。くのたま達は既に食事を終えたようで、門の周りに気配はない。
「俺はここで待っています。」
「ごめんね、なるべく早く戻ってくるね」
「いえ、俺の事は気になさらず、ゆっくりして来てください」
その後、Aさんは言った通り女子の入浴にしては早い時間に戻って来た。
「ごめんね、お待たせしました」
「いえ、そんな待っていませんよ。きちんと浸かれましたか?」
「うん、温まったよ。ありがとう」
「いえ。行きましょうか。足元気をつけて下さいね」
未来人は真っ白の寝巻を纏っているため、月のない暗い夜でも視認しやすい。
襲撃場所まであと三十間(※55m)。
懐の鏢刀に手を伸ばしたその瞬間、視界の端に黒光りした何かが映り込む。
それが棒手裏剣であると認識する頃には兵助目掛けて放たれていた。
「避けろッ!!」
兵助の武器は寸鉄。棒手裏剣を防ぐのに適さない。それは私の鏢刀も同じ。
兵助は私の声で危険を察知し、すんでのところで棒手裏剣を飛び退いて避ける。
が、その隙に何者かが兵助達の近くに降り立つと、未来人を抱えて木の枝へ飛び乗った。その体格から忍術学園の者ではないとすぐに分かった。かなり上背がある。
私はすぐさま敵から目を離さないようにしながら兵助の元へ駆け寄る。
「え、誰!?」
「曲者だよ」
低い声が夜闇に響く。
「く、曲者?」
「誰だお前は!?」
「だから、曲者だと言っているでしょ」
「どこの誰かと聞いている!そいつをどうするつもりだ!?」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年7月31日 17時