五年生の計画の段（兵助視点） ページ28
(足取りが重い)
我ながら嫌な役を買って出てしまったと思った。
三郎は、『汚い所は自分だけが被るから協力してくれ』『私が仕掛けた時、兵助は何も知らない体で驚いてくれ』とは言っていたけれど、全てを知っている身からすれば複雑だ。
六年長屋の角を曲がると、例の人が床に蹲っていた。
手には血で汚れた雑巾が…！？
「Aさん！？どうしました！？」
「えっ？」
「いや、血…」
「ああ、これは私の血じゃないですから」
「…では、一体誰の？」
「留三郎のですよ。あ、でも伊作君曰く、変な病気とかではないみたいです」
困ったように笑う。
赤黒く染まった雑巾を見る限り、出血は少しという訳ではなさそうだ。
「ど、どうして笑えるんですか…？」
「え？」
「その血の量を目の前にして、どうして笑えるんです？」
三郎と話さなければその笑顔に特段何も思わなかったかもしれない。でも目の前の人が笑いながら先輩の血を掃除しているという光景が、何だか人道から外れているような気がしてならなかった。
「それほど深刻そうには見えなかったけど…え、やっぱり私に隠しているだけで病気なの…！？」
顔色がサァっと悪くなり、すぐ近くの食満先輩と善法寺先輩の部屋の前へと走っていく。
「ね、ねえ伊作君、留三郎本当に大丈夫…？」
そう言うと戸が開いて、「大丈夫だよ、ただ興奮して鼻血がたくさん出ただけだから」と答えた。
「なんだそっか…」
「そんなに心配だったの？」
「ああ、そこの五年生の人が血の量が多いからってすごく心配してて」
五年生と聞いて善法寺先輩が顔を出す。
「久々知？」
「え！ああ、はい。何があったのかなと…」
「おう、久々知」
食満先輩が自室から出てくる。両の鼻に綿が詰まっていて、鼻声だ。
「俺なら心配要らんぞ。血流が多いのか、いつも鼻血は人より多く出るんだ。出た後は適度に血が抜けてむしろスッキリするしな」
「そうですか、それは良かったです。」
「A、俺の血拭いてくれたんだな、ありがとう」
「いえいえ、引き戸を直してもらったしお互い様だよ。
あ、そうだ伊作君！鼻血の時は綿を詰めない方がいいの知ってた？」
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年7月31日 17時
