鉢屋三郎の疑念の段(三郎視点) ページ20
遡ること半刻(※1時間)。
私は息を弾ませて部屋へ駆け込み、後ろ手に引き戸を閉めた。
「ふうっ。もう少しで立花先輩に見つかる所だった」
「もう、だから止せって言ったじゃないか三郎!」
「はは、すまんすまん。だがしっかり観察してきたぞ。見過ぎて奴と目が合ってしまったが」
「ええっ!?どうするのさ!?」
「大丈夫だよ、万が一の時のために曲者の忍っぽい変装はしといたからね」
「変装って、君の代名詞なんだけど…」
「大丈夫さ。訓練を受けた忍なら無意識下で私への追跡行動を開始する動きをしてしまう筈だが、奴はそれも無かった。寝起きの様子を見る限りは素人だ」
「まさかその反応を見るために目が覚めるまで待っていた訳じゃないよね?」
「んー、どうかな?」
「もう、三郎!その子に捕まらなかったとしても立花先輩に捕まってたら大目玉だったんだからね!?」
「そうだな、以後気をつけるよ」
今晩は六年生が実習でいない筈だ。つまり六年生に代わって五年生が自称未来人の監視を請け負わねばならない。その前に敵情視察って訳でこの鉢屋三郎が天井裏から監視をしていたのだ。
◆
「はあ!?女子の部屋を覗いたって訳!?」
「しーっ!声が大きいよ八左ヱ門」
内々に五年生のいつもの面子に招集をかけ、先程の事を伝えてみると、竹谷八左ヱ門は大きく反応した。この男に関しては俺がやりたかったーとかでしょう。
「朝っぱらから衝撃過ぎて眠気吹っ飛んだわ!
お前、そんな事してAさんが可哀想だと思わないのか?あーどうせなら俺が行きたかったー!」
ほらね。
「…で、どうだったのだ?」
久々知兵助はいつも冷静だ。
「天井裏の私と目が合ったとき、奴は天井に向かって枕を投げたが追跡行動は取らなかった。加えて昨日の滝夜叉丸が誰も通っていないのに落とし穴が抜けたと言い切った事から少なくともあの娘は忍ではないと思った」
「じゃあやっぱり普通の女子なんじゃない?」
「未来から来た時点で普通って言える?」
「いやまあそこはね。でも気がついたら過去にいたってんなら不可抗力でしょ?」
勘右衛門はただの女子だと考えているようだ。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年7月31日 17時