未来の話の段(庄左ヱ門視点) ページ19
「一年は組、黒木庄左ヱ門と申します」
「お初にお目にかかります、Aと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。しかし私の方が若輩ですので敬語は不要です」
着替えを終えて顔を洗いに行く途中、六年長屋の角部屋の前で座るAさんを見かけた。
昨晩は未来から来た女性としてどこもAさんの話題でもちきりだった。学級委員会委員長として鉢屋先輩がわざわざ僕達の部屋まで来られて十分用心するようにと注意していかれたけれど、僕は知的好奇心を抑えられず洗顔後に話しかけに来たのだ。
「分かったよ。これからお世話になるけどよろしくね」
「はい、何かお困り事がありましたらどうぞ私か一年は組にお申し付けください!」
「そうさせてもらうね。庄左ヱ門君はとても礼儀正しくてしっかりしているね」
「学級委員長ですから!」
そう言うと、Aさんは少し驚いたように目を丸くされた。
「この時代にも学級委員長がいたんだねぇ!私のいた時代にも学級委員長がいたよ。まさか学級委員という学級構造が室町時代に端を発するなんてね〜!」
「えっ、そうなんですか!?…あの、未来について色々と質問しても宜しいですか?」
「もちろん!ここに座って話そう!」
未来の国内情勢のこと、諸外国との関係のこと、民の生活様式のこと、幕府のことなど、僕の質問に対して言葉を選びながら真摯に色んな話をしてくれた。
Aさんが生活していたのは五百年ほど先の話らしく、聞くだけでは分からないものもたくさんあって、時には地面に図を描いて分かりやすく丁寧に解説してくださった。
「…とまあ、こんな感じなのだけど。ごめんね、説明が下手であんまり分からなかったよね?」
「いいえ!とっても丁寧で分かりやすく、興味深いお話ばかりでしたっ!
僕の為にありがとうございます!」
「いえいえ。こちらこそ私の話し相手になってくれてありがとう。楽しかったよ」
にこっと人の良さそうな笑顔を向けられて、人知れず自分の胸が高鳴った。
僕はこの人に尚一層の興味が沸いた。
「…またお話うかがっても宜しいですか?」
「うん、また話そうね、庄左ヱ門君!」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年7月31日 17時