其の弐(八左ヱ門視点) ページ7
「ジュンコが勝手に散歩に出て戻りません!」
午前の授業が終了し、昼食に行こうとした俺に孫兵が言う。雷蔵と三郎がこちらに憐れみの視線を投げかけて先に食堂へ向かった。
定期的にいなくなるジュンコの行方不明報告も、その後の捜索もウン十回は繰り返した。最早日常である。ただ、その報告は放課後だと幾分助かるんだがなぁ。
「おーい、ジュンコー?」
二手に分かれ、今までにジュンコが発見された箇所を中心に見て回る。三年長屋の縁側の下、生物小屋の裏、池の近くの岩の横、大きな一本松の木の下──
(あっ)
そこにはAが横たわっていた。忍び足で近付いてみると、どうやら寝ているらしく、規則正しく胸が上下していた。
(……ん!?)
異様に膨れ上がった腹部に目を見張る。よく見ると襟元にジュンコの顔が覗いているではないか!!
ジュンコ:
A:俺の好きな人。当然可愛い。間違いなく世界で一番。
可愛いと超絶可愛いの掛け合わせ……とっ、尊いッッ!!!
可愛いが過ぎて俺の語彙全てが可愛いに変換されてしまう。
柔らかな風が吹いて木がサラサラと爽やかに揺れる。小さくてぷっくりした唇に木漏れ日が当たったり、外れたり。
(……口付けたい)
一瞬頭に過った本音に慌てて口を覆う。
(──いや、俺は単に口付けたいと思っただけだ!行動に移そうなんて考えちゃいない!何も焦る必要なんかないだろ!)
…でもほんの少し触れるくらいなら…起きないか…?
Aも言っていただろう、お礼考えておいてと。だったら今、Aの唇を食んでもいいだろうか。
思わず生唾を飲み込む。
(とっ、とりあえず、顔を覗き込むだけ…)
両手をそっとAの頭の横につき、徐々に肘を折ってゆく。俺とAの距離が確実に近くなる。すると獣の勘が働いたのだろうか、ジュンコが目を覚ましてしまった。
「シャー!」
(威嚇の鳴き声っ!)
「ん……ジュンコちゃん、どうしたの……」
まだ半分寝ているのか、目を瞑ったまま胸の辺りを赤ん坊をあやすようにトントンと叩いてジュンコを落ち着かせようとしている。首を捻ってジュンコに俺の顔を見せると、見知った顔に威嚇はやめてくれた。
──が。
首を動かした事により俺の髷が下に垂れ、Aの顔にばさりと落ちてしまった。
67人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
玉虫厨子(プロフ) - 雪見だいふくさん» わ〜ありがとうございます💓今はペースゆっくりですが更新頑張ります!! (2月4日 16時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
雪見だいふく - この作品めっちゃ好きです〜更新大変だと思うけど、頑張ってください!!!! (2月4日 11時) (レス) id: ebcac87da6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年12月29日 15時