其の参 ページ47
「意味ないって何だ。何かあればすぐに助けに入れるだろ」
「だから護衛が居ちゃ意味ないんだよ。一人で無事に帰って来れなきゃ」
「だったら今日、もし攫われてたら一人でどうしてた!?自分の身を自分で守れてたか!?」
「分からないけど、そんなの気にしてたらこの時代で生きていけないでしょ!町の若い女の人だって多くが一人歩きしてた!どうして私はいけないの?未来人だからなの!?」
「ちょっと君達!外でやる会話じゃないでしょ!ほら、入った入った!」
見かねた小松田さんが中へ入るよう促した。そして勿論、こんな最悪の空気の中でも入門票は差し出される。
「Aさん、大きな声で未来人とか言っちゃダメじゃないですか!ドクタケに聞かれてたらどうするんです!?また一人で出掛けられなくなりますよ!
竹谷君も心配する気持ちは分かるけど、初めての単身外歩きでAさんとっても嬉しそうに出掛けてったんだよ。そもそも許可を出したのは学園長先生だし、記念すべき日にそんな水を差すようなこと言わなくてもいいんじゃない?」
小松田さんのごもっともなお話に二人とも何も言えなかった。
もしもの話だけれど。
私達がこれからずっとお付き合いを続けて一緒に生きていくことになったら、一人で町にも行けない未熟者を娶るなんて、八左ヱ門にもご実家の人達にも申し訳ない。
たとえそういう未来が訪れなかったとしても、この時代で生活していくなら忍術学園を出る日が来ると思う。早くこの時代の女性と遜色ないくらい身の回りのことが出来るようになりたいし、色んな知識も蓄えたい。
未来人というステータスを脱したい。この時代の普通の女の子になりたい。今日はその第一歩だった。
町歩きは問題なく出来たのにな。勝負に勝ち試合に負けたって感じだ。敗因は私の見通しの甘さと勇み足ってとこかな。
「私、馬鹿みたいだ」
いつも優しい八左ヱ門に叱られてしまったなぁ。
でも、私が八左ヱ門の気持ちを分からなかったように、八左ヱ門も私の気持ちや焦りは分からないんだろうな。
「A…」
「ごめん、今あんまり冷静じゃない。部屋に戻るね」
「夜、話せるよな…?」
お風呂上がりに話すのは大切にしてきた日課だけど、今日は一人で過ごしたい気分だ。
「どうかな。疲れたから今日はすぐ寝るかもしれない」
「……分かった。また明日な」
“また明日”と言える八左ヱ門の方が私よりずっと大人だ。
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玉虫厨子(プロフ) - 雪見だいふくさん» わ〜ありがとうございます💓今はペースゆっくりですが更新頑張ります!! (2月4日 16時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
雪見だいふく - この作品めっちゃ好きです〜更新大変だと思うけど、頑張ってください!!!! (2月4日 11時) (レス) id: ebcac87da6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年12月29日 15時