其の弐(八左ヱ門視点) ページ46
出門票には過去一番汚い殴り書きでサインをすると小松田さんはその慌てぶりに驚いていたが、速やかに門を開けて下さった。
「……A!!」
「あ、八左ヱ門〜!」
幸いなことに、Aは会話ができるくらいの距離まで帰ってきていた。こんなに何かを心配したのも安堵したのも久しぶりだ。
「そんなに慌ててどうしたの?急用で出掛けるの?」
「……いや、Aが一人で町へ行ったって聞いて、心配で居ても立っても居られなくて」
「そうだったんだ!心配ありがとう。ただいま!」
「怪我は?男に話しかけられなかったか!?」
「怪我はしてないよ。話しかけられはしたけど?」
「どういう状況で!?」
「茶店で休憩していた時、隣に若い男の人が座って。どこから来たのとか、どこへ行くのとか、これから時間あるかとか聞かれたよ」
「それで、なんて答えた!?」
「基本的に全部内緒って答えて、今から恋人と会うのでって言ったら“そうですか”って去っていったよ。ね、これ模範解答だよね!?」
俺がどれだけ心配していたかも知らないで、Aは得意げだ。まるで初めての狩りを成功させた子猫が親猫に獲物を見せに来たかのように純粋な喜びを表情に表していた。
Aが無事に帰って来て嬉しい筈なのに。男への対応も特に問題はなかったのに。それなのにどうも虫の居所が悪い。
利吉さんが贈った小袖を着て、立花先輩が贈った紅を点しているそのさまが、この状況に追い討ちをかけるように腹立たしく思えてしまう。
「そうだ、今日はくのたまちゃん達へのお礼に金平糖を買って来たんだけど、八左ヱ門と分けようと思って一つ余分に買ったの!」
一粒取り出して、俺の口へと近付ける。
「それは後にして。まだ話が終わってない」
金平糖を摘むAの手をそっと掴んで下ろさせると、さすがに不機嫌さを感じ取ったAが僅かに眉根をぴくりとさせる。
「……もしかして一人で町へ出たから怒ってる?」
「怒ってはないけど、すごく心配したんだ。何の相談もなかったし」
腹立たしいんだから怒りは感じているが、なるべく穏便に済ませようと気持ちを抑えた。ここでAが謝ってくれたら終わらせようと思った。
「ごめんね。相談したら後ろからこっそりついてきそうだなと思って。それじゃ意味ないからさ」
俺に相談しても意味ないって、どういう意味だそれ。
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玉虫厨子(プロフ) - 雪見だいふくさん» わ〜ありがとうございます💓今はペースゆっくりですが更新頑張ります!! (2月4日 16時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
雪見だいふく - この作品めっちゃ好きです〜更新大変だと思うけど、頑張ってください!!!! (2月4日 11時) (レス) id: ebcac87da6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年12月29日 15時