暗雲立ち込めるの段(八左ヱ門視点) ページ45
「学園長先生!!竹谷八左ヱ門です!お話がございます!!」
入りなさい、と静かに声が掛かる。俺が興奮してやって来たというのに、それを予測していたかのような落ち着きぶりだった。
「失礼します。学園長先生、Aがまだ戻りません。
一人で町へ行くのを許可されたそうですね。どういうおつもりですか!?」
「Aが一人で行きたがった。この時代の金銭感覚を身につけ、他の者とも何度も町歩きを経験した。それに対し儂はそろそろ許可を出す頃合いと思うたまで」
「Aのいた未来がどんな場所だったかお聞きになりましたか!?銭袋を落としたって高確率で落とし主の元へ戻って来る、貧しい者には政が予算を組んで救済する、銃や刀を所持することは禁じられている。暗くなったら道にも明かりが灯る。そういう極めて治安の良い、平和な時代なんです!」
「ほう、それは興味深い。また今度Aを呼び寄せて聞いてみなければの」
「〜〜〜〜ッ!!僕も町へ行かせて頂きますから!!!」
「竹谷八左ヱ門!!!!」
学園長先生のお部屋を勢いよく飛び出すと、突然大きな声で呼ばれた。湯呑みを持ったまま、こちらには視線を向けずじっと真っ直ぐ前を見ている。
「……、はい」
「一人での町歩き、これからAがこの時代で生きて行くのに必要な経験じゃ。あの子には夜明けから日没までと門限を設けた。これを守って無事に帰って来ることができれば、大きな自信となるじゃろう。何よりAが一人に拘っておる。それでも迎えに行くか?」
「……それでも僕は心配です。密かに後をつけて見守る者もいないのですよね」
「おらん」
「それだとAが暴漢に襲われた時、誰も助けてくれません」
襲われてしまってからでは遅い。人攫いに遭ったら捜索も困難だ。外国人に売られて船に乗ってしまったらもう探しようもない。二度と戻って来れない。
「Aとて馬鹿ではない。そのような危険が及ぶことも考慮した上で言っておると思うが」
「Aの選択だから仕方がないと!?」
「落ち着きなさい。お主の恋仲の話じゃ。どう行動するかは自分で決めなさい」
「今から迎えに行きます!」
急いで小袖に着替え、懐に微塵を突っ込んだ。
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玉虫厨子(プロフ) - 雪見だいふくさん» わ〜ありがとうございます💓今はペースゆっくりですが更新頑張ります!! (2月4日 16時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
雪見だいふく - この作品めっちゃ好きです〜更新大変だと思うけど、頑張ってください!!!! (2月4日 11時) (レス) id: ebcac87da6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年12月29日 15時