其の参(孫兵視点) ページ43
「竹谷先輩」
「ん?どうした?」
「今日はAさん来ないですね」
放課後の生物委員会の活動中、孫次郎が言った。竹谷先輩とお付き合いされてから生物小屋へは毎日来ていたのに、今日はまだ姿が見えない。
「うーん、そうだな…。Aのことだから、吉野先生をお手伝いしてたりするんじゃないかな」
夏休み前はよく事務の仕事を手伝っていたのを見かけたから、僕も大方そうだろうと思う。或いは、一年は組の三人組のようにどこかで居眠りしているか。この前だってジュンコを懐に入れて寝ていたって言うし………あれ?
「ジュンコ……?どこ行っちゃったんだ!?」
「またどっか行っちゃったのか!?」
「はい、さっきまで居たんですけど…」
「それならまだ遠くには行っていない筈だから、お前達で探してくれ!俺は残りの世話を急いで終えてから加わる!」
恋仲がいようといまいと、先輩の生物達に対する愛情や僕達への接し方など根本的なことは変わらなかった事に安堵した。もし僅かでもぶれていたなら、僕はAさんと竹谷先輩の仲が深まるのを快く思わなかっただろう。
竹谷先輩は言わずもがな虫が大好きだが、Aさんは苦手らしい。竹谷先輩は冬が近付いてくると髪に蓑虫越冬隊を住まわせているけど、ちゃんと知っているのかな。大事な事だと思うけど。それで竹谷先輩が蓑虫を越冬させなくなったらちょっとガッカリだな。
「ジュンコ〜、どこだい?」
三年長屋の方にはいなかった。
ジュンコは命の恩人のAさんをいたく気に入ったようで、隙あらばAさんの懐に潜り込もうとする。今日も二人は一緒にいるのかもしれない。
「小松田さん、ジュンコかAさん知りませんか?」
「Aさんなら町へ出掛けたよ〜」
ほら、とご丁寧に出門票を見せて下さった。そこには綺麗な文字でAとだけ記されていた。
「お一人でですか」
「うん、ジュンコはいなかったと思うけど?」
さすがに生物委員が飼育する生物を門外へ連れ出すとは考えづらい……じゃなくて、この人って一人で出掛けられるのか?
「孫兵ーっ!ジュンコ見つけたぞー!」
その時、竹谷先輩がジュンコを首に巻いて走って来られた。
「ありがとうございます!ジュンコぉ〜、どこ行ってたんだい!?一人で散歩はダメだって言ったろ?」
反省するように小さくなって、チロチロと僕の手を舐めた。
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玉虫厨子(プロフ) - 雪見だいふくさん» わ〜ありがとうございます💓今はペースゆっくりですが更新頑張ります!! (2月4日 16時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
雪見だいふく - この作品めっちゃ好きです〜更新大変だと思うけど、頑張ってください!!!! (2月4日 11時) (レス) id: ebcac87da6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年12月29日 15時